[ノベル] I can not doing /俺には出来ないよ 2/14「チャンスの法則」

I can not doing /俺にはできない

2/14「チャンスの法則」

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テーブルの上に出てきたのは初めて見る実験セットのようなプラスチックの容器が2つ。その横に洗剤が置かれた。

「これが、ドリームロードで扱ってる製品のひとつで、洗剤のウオッシュセブン」

どうやらネットワークビジネスも会社の名前はドリームロードと言うらしい。出された洗剤もアメリカかヨーロッパかと思わせるデザインされたそのパッケージは確かにカッコイイデザインだ。その横に置かれた日本ではお馴染みの洗濯洗剤アクション。見るからにセンスの差を感じるのは当たり前だった。

実験セットに料理油を落としその洗浄力をデモンストレーションをすると性能の差は目に見て分かる。ウオッシュセブンで軽くすすぐだけで料理油がシリコンで弾かれたかのように落ちていく。中金はこの洗剤を使って権利収入を得ていることが想像出来た。

「ね!この違い、スゴイでしょ」

「ああああ、これはスゴイですね」

「でさ、このウオッシュセブンのパッケージは紙で出来てて環境に優しいとされてるんだ。それでさ、洗剤って実際は下水に流れるでしょ。それが24時間で空気と混ざり合って洗剤の活性性能が無くなって水に戻るって言う優れものなのよ。地球環境に優しい製品を扱ってるのがドリームロードね」

「なるほどねー。それは良いことですね」

「で!ここからが問題で!これを買ってくれ!ってことじゃないんだ」

「まあ、そうでしょうね」

「あ!驚かなかった?」

「まあ、そこは驚きませんし、買ってくれ!と言うのは半分嘘で半分本当でしょうね。購入する人がいなければ利益は上がらないですから。誰も買わずに権利収入なんて発生するわけないじゃないですか、、、、買わなくて良いなら買わないですけど」

「いや、まあ、買うんだ、、、購入することには間違いがないんだけど、、、、でも買わされるってことじゃなくて、、、」

「そりゃそうですよ、無理やり買わせたら警察でしょ」

「まあね、、、」

「それで、この洗剤をどうしたら、権利収入になるんですか?」

文洋は元よりビジネス書が好きでを大手書店で立ち読みをしに通っていた。ある意味ではチャンスを探していたのだ。しかし立ち読みで学んだことは外に持ち出すことはあまりなかった。理由は「ダサいから」と単純なものだった。吉夫が不意を突かれたかのような顔を刹那に覗かせたが続けて説明を始めた。

「そうそう!聞いたら、ちょっとビックリするよ!」

その説明はどんな会社のどんな製品を扱う時にも当然の様な説明だ。会社の歴史から始まった説明では胡散臭い会社ではなくアメリカやヨーロッパでは認知度が高いことが分かった。ドリームロードの日本本社は渋谷にあり若竹も何度か通ったことのある道に高層ビルの新築があったことに覚えがあった。次にドリームロードから製品を買うことでポイントが貯まっていくと言うシステムだった。ポイントを貯める仕事。文洋は中金の説明を頭の中で整理した。

「このポイントってのが権利収入か?」


ドリームロードでは1stボーナス、2ndボーナス、3rdボーナスと3段階があるようだ。その計算式は参加者全員が共通、そして計算は毎月1日から末日の合計ポイントで計算される。

自分がドリームロードから1000円の洗剤を買い物すると自動的に1000ポイント獲得。本人(文洋)が1000ポイント購入し友人A友人Bにドリームロードの洗剤を勧めAとBが購入するとAとBは各1000ポイント獲得し文洋は自分の1000ポイントを加えた3000ポイント獲得となる。ここまではネットワークビジネスにありがちなのでとても分かりやすい。


1stボーナスの計算式は自分発信のネットワーク100万ポイント以上が対象で全体の20%のボーナス(約20万円)獲得ができる。文洋1人では100万円分の購入は無理なので文洋発信でネットワークが必要となる。100万ポイント×20%=20万円。ここまでもなんとなく理解しやすい。


2ndボーナスは少々複雑だった。文洋がAまたはBのネットワークを広げ売り上げを伸ばすと時間が経てばAもBも100万ポイントのグループを作ることになる。1stボーナス20%の計算が当てはまらない。当てはまったとしても文洋に入るボーナスは少ない。そこで用意されたのが100万ポイントのグループ1つに付き100万ポイント以上に対し5%のボーナスが支給される。Aさんグループが100万ポイントジャストだとその5%の5万円、AさんとBさん2つだと合計10万円となる。

Aグループ100万ポイント×5%=5万円、Bグループ100万ポイント×5%=5万円、5万円×2グループで10万円。AグループのAさんは1stボーナスに当てはまり約20万円を獲得。Bさんも同様。


金額は減る。しかしセカンドボーナスと言うのが中金の言う権利収入だった。中金は声を少し熱くさせて説明を続けた。

「このセカンドボーナスがすごいのさ!ドリームロードで扱ってる製品はほとんどが1ヶ月でなくなる消耗品だから、もしAさんのネットワークの人たちがドリームロードの製品のファンになったら、Aさんの流通は無くならない!」

「まあ、そう、、、そうですね」

「100万ポイントを維持し続ける限り、、、、」

文洋が口を挟んだ。

「それって、5万円が永遠に入る?」

「いい勘してる!そう言うことなんだよ」

「それを権利収入って言ってたんですね」

「そう!だから文洋にも教えたかったんだ」

中金がそう言うと話を続けた。

「で、3rdボーナスって言うのは計算がややこしいんだけど、100万ポイントのグループを3つ以上持っている人には1つに付き全体の50%が年末に支払われるんだ。単純計算で450万円くらい」

「それは、すごいですね、、、、、、あれ、でもちょっと待ってください、、、、、、ここ家賃25万円ですよね、、、、じゃあ、中金さんは?」

「お!良いとこに目をつけたね!俺はセカンドボーナス3つ作ったんだ。だからこの説明に当てはまめると毎月15万円くらい、、、だけど実際は25万円くらいかな。それと年間の3rdボーナスで450万円から600万円くらい」

「ちょっと?」

「何?」

「いや、、、」

「何?言ってよ」

「いや、みんなが言っている先に始めた奴が得をするって言うのは、、、、中金さんが例えば3つの100万ポイントのグループのままだとして俺が4つの100万ポイントのグループを作ったら、、、えーっと、、、」

「あ!そう!その通り!単純計算で月のボーナスは俺が15万円、文洋は20万円、で、年間で俺が500万円、文洋が600万円、だから後とか先とか関係ないんだよ」


説明は佳境に入っていた。

「要は文洋が最低でも1stボーナスの20万円を獲得すれば俺には5万円が入るんだ。で、先に始めようが後に始めようが収入は頑張った人が頑張った分だけもらえる。扱うものは消耗品、消費すれば必ず買う必需品が洗剤!作ったネットワークは無くならない!これで貴方も成功しませんか!権利収入で自由になろう!貴方の夢のために!貴方の成功が私の成功です!、、、、、、、美しすぎるでしょ、、この仕事」

興奮を抑えきれない中金だった。それをよそに若竹が思ったのは少し違った。

貴方の夢のため!貴方の成功が私の成功です!と言う言葉を平気な顔で他人に突きつける奴にろくな奴はいないことを若竹は知っていた。お金の行き来する事柄に関しては「貴方のため」は9割の確率で嘘なのを知って言っている。本当は自分のためなのだ。しかしそこを突っ込んでいたら話が進まないし終わらないし相手への信頼を疑うことになる。それもこの最強兵器である「貴方のため」と言う嘘の持つパワーだ。

「それは、、、、すごいです!けど、、、3rdボーナスは、なんか大成功した人が優遇されるみたいで、なんか嫌な感じも残りますね」

「今は単純な説明だからね。そう思うかも知れないけど実際は20ライン作っていようが2ラインだろうが次の1ラインを作る作業の労力は同じなんだ」

「へぇ、、、そんなもんなんですね」

「権利収入で大成功しよう!って話だからそこを考えた方がいいね。それにドリームロードをやれば分かるけどすごく協力的な成功者もいるんだ」

「協力的?」

「そう。例えば、今からドリームロードで大成功するぞ!って人に自分が家賃を払ってオフィスみたいなサロンみたいな物件を借りてくれてたり、あと渋公や他の会場を借りてドリームロードのスピーチイベントみたいなのを開いてくれたり」

「セミナー、、、、、セミナーや講演会みたいなものですか?」

「まあ、言えばそうなるけど、雰囲気は全然違うよ。もっとラフなもの」

「、、、、へえ、、、、それは、、、会社主催じゃない、、、、」

「そうだね。ドリームロード本社はあまりそういうのやらないし、やってもやっぱりセミナーっぽくなるからイマイチなんだ。成功した人が大きな会場を借りてトークイベントをやると説得力が違うし、ドリームロード自体の考え方だと参加する人は自営業扱いだからルールはあるけど基本的にはノータッチなんだ」

「そいうのをやってない人もボーナスはもらえる?」

「もちろん!それも自由。でも大なり小なりやってるんだ。だってさ、ネットワークで一番大事なのはコミニケーションだから」

「そんなもんなんですね」

疑問も多々あるが、この説明通りなら永遠に入ってくるお金の魅力はやはり凄い。

「あの、中金さん、で、電話で言ってた700万円の権利収入って言うのは3ラインを作って、えーっと」

中金の書いたホワイトボードに目を向け確認した。

「えーっと、、、エメラルドステータスって言うとこなんですか?」

ドリームロードには階級の様なものが存在し3つの100万ポイントを越えるネットワークを作るとエメラルドステータスと呼ばれ、6つでダイヤモンドステータス、9つでエグゼクティブステータス、15個の100万ポイントを越えるネットワークを作った人をトリプルステータス、18個でクラウンステータス、その倍の36個でクラウンアンバサダーと呼ばれている様だ。

「そう、俺はエメラルドステータス」

「と言うことは、中金さんと同じ、、、、ボーナス、、、、100万ポイントを3ライン作れば良いと言うことですか?」

この時若竹が思ったのはこの説明を良しとするならさっきの洗剤を買う人はおそらく大勢いると想像した。

「あああああ!そこね!ちょっとややこしいだけど、自分から見た基本は100万ポイントのラインが何ラインあるかってとこね。これが実は100万ポイントを1回クリアするだけでも説明上はエメラルドステータスと同じ収入なんだけど、11日から1231日を一区切りでその1年間に100万ポイントを3回クリアするラインを3つ作らなきゃいけないんだ。だから、12月1月2月だとエメラルドステータスじゃないんだよね。だから2ndボーナスは残念ながら入らない」

1月、2月、3月、だとエメラルドステータス?」

「そう!でも、月の収入は一緒、年間ボーナスが変わってくるんだ」

「、、、、なるほど、、、1年に3ラインが3回ってことか、、、、」

「あ、そうそう、今、その話が出たからついでに言うと、100万ポイントを初めてクリアした人をファーストステータスって言うのよ。2回目がネクストステータス、で、めでたく3回クリアした人をリーダーステータス。それで、このリーダーステータスを3ライン作った人がエメラルドステータスと呼ばれるんだ」

エメラルドステータスの前にも称号が存在していた。100万ポイントを1回クリアした人をファーストステータス、2回クリアした人をセカンドステータス、3回以上クリアした人をリーダーステータスと呼ぶようだ。

「と、言うことは、中金さんは、リーダーステータスでありエメラルドステータス?で、そのグループ?中金グループには3人のリーダーステータスがいる?」

「そう!飲み込み早いね!」

おそらくルール説明と実際は違うだろう。しかしそれを今聞いても解決しない。こういう場面で必要なのは根も葉もない直感だ。

気持ちに少しでも曇る部分があるなら保留にしたほうが良い。勢いやノリでの納得は後悔することの方が多い。ここまで聞いても少しだけ若竹は気乗りが弾まなかった。今話しているのは金儲けの話なのだ。それは終始、説明をする中金の目の色が円マークになっていたことが気になって仕方がなかった。人が金目的で卑しい話をする場合と同じ目の色だ。しかしそれよりもこれが本当の話であれば友達みんなが自由を手に入れることができる気がするのも確かだ。

「あ、、、、それより、よく言われてるピラミッド商売とか、あと、大量の在庫に泣くとか、あと、、」

「あれでしょ、ネズミ講だとか、損するとか騙されるとかでしょ?それは嘘だね、、、嘘って言うか、無理だよ、全員同じルールを知ってやってるからね。まあ、大量の在庫って言うのはドリームロードの製品は小売りして良いから例えば20個のウオッシュセブンが家にあって今週全部小売りする予定だったら大量在庫と言えば大量だけど、予定在庫だからね。ネットワークビジネスのルール、このマーケティングプランを知らないで言ってるだけだよね」

「あ、そう言えば、、、」

中金のマンションの玄関の横にドリームロードの名前が印刷されてた段ボールが2つ積んであった。そして対峙した中金の背中の壁にもう1つ段ボールがある。

「あ、これよ、だから、小売りOKだからたまに売ってるよ。あと自家消費と、俺のネットワークの人が緊急で必要な時にすぐ渡せるようにね。あ、さっきのウオッシュセブンの実験もやるから必要在庫みたいなもんだよね」

若竹の会社の社長が心配していた不安は無さそうだ。大量の在庫に見えた段ボールも理由を聞けばあっけなく解決した。

母体である会社にも不安は無い。環境に良い製品なのも掴みだけだが理解出来た。断る理由があまり無い。しかし若竹は時折中金の目が円マークになるのが唯一引っかかる。

「どう?ドリームロードビジネスをやってみない?」

「、、、、まだ半信半疑ですけど登録はします。本気でやるかは約束できないですけど、何か可能性を感じています」

「いい、それで良いって。色々見てさ、知ることから始めれば良いと思うよ」

「やめることもありますけど、、、、」

「良いよ。それはそれで仕方がないし。とりあえず、参加するとこから始めれば良いんじゃない?」

「、、、、はあぁぁ」

一瞬ためらったのはこの手の話には裏があるような気がしたからだ。しかしドリームロードのマーケティングプランの説明を聞くかぎりでは曇った部分はなかった。

参加するだけなら無害だ、、、、、、そう思ったのが正解かどうかは今から始まる若竹文洋のネットワークビジネスに答えがあるのだろう。

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この物語は筆者が経験したことを基に描いたフィクションです。

毎週水曜日。第3話へ続く。