[ノベル] I can not doing /俺には出来ないよ 4/14「偽りへの序曲」

「ファーストステータスを1年以内に達成した人のほとんどがダイヤモンドステータスになっているんだ」

と言うことを聞いた若竹は焦った。ダイヤモンドステータスとはリーダーステータスを6ライン持っている達成のことを指しその年収は1500万円を越えると言う。1000万円の年収では人生は何も変わらないことを知っていた若竹はなんとしても自分と自分の友人をダイヤモンドステータスにしたかった。

その理由は始めた時から変わらないと信じていたかったが、いくつものミーティングやイベントに参加した若竹は「貴方の成功が私の成功」の意味を冷静に受け止めることが出来なかった。

金と自由をイコールでつなぐ歪みは若竹自身にも分からないくらい大きくなっていた。その歪みはそこにあるのかさえも分からないくらい巨大になっていた。

若竹は自分の作ったネットワークの人に言う。

「君がダイヤモンドステータス、俺もダイヤモンドステータス、同じ収入と同じ自由を同じルールで得れるんだ」

言われたグループの人は思うだろう。

「俺が作ったネットワークは若竹のグループ。俺がダイヤモンドステータスにならなくても君のポイントは上がる」

この時期、若竹は過去の自分を忘れさり相手の気持ちを考えることができなかった。

同じルールではあるが同じ頑張りであっても同じ収入ではない。計算上はチームプレイでも事実上はチームプレイでは無いのだ。絆と言うビジネスに関係のない建前が唯一の救いだ。このジレンマのでを口にすることはネットワークビジネスにおいてタブーなのだ。

もし貴方がネットワークビジネスでの成功者で同じネットワーク内で友人が成功に程遠いとしたら差し伸べる言葉はなんだろうか。「お前も頑張れ!」だとしたらそれは身勝手だろう。その友人の頑張りで貴方は成功できたのに「お前も頑張れ!」はあまりに無神経な物言いだ。このジレンマが俗に言う「先に始めた奴が儲かる」と言う事実なのかも知れない。


少しづつ言い方を変え上手な言い方ができるようになった7ヶ月目にはさらに50人以上の友人知人にアポイントをとり誤解の無いように決定権や選択権は貴方にあることをなるべく正確に伝え説明を何度も繰り返した。

1ヶ月で50人に会うのは単純計算で1日に最低1人、2日で3人に会い伝えなければいけない。それをいとも簡単にやれたのは若竹の人柄やその正直さがあったからかも知れない。

しかし50人に伝えていくことに実際の意味なかった。ドリームロードビジネスを一緒に始めてくれる仲間もその7ヶ月目でさえ2人しか見つからなかった。7ヶ月目が終わりやれることを全部やった。

初めに見つけた3人の仲間から発信して出来たネットワークは100人、その後の7ヶ月目でできた新たな2人、これではファーストステータスをクリアすることは出来ないと感じるのが普通だろう。

102人の消費者がドリームロードから1万円分の購入をしてくれれば計算上は100万ポイントの達成できるのだが実際はそうは上手くいかない。せいぜい多くても1万円分、少なく考えれば3000円分の購入をしてくれれば良い方だ。102人が平均3000円の購入だと306000ポイント。約70万円分のポイントが足りない。

そんなことを思ってるときに中金が若竹に根拠がよく分からないことを言って来た。

「文洋、そろそろファーストステータスになれるんじゃない」

根拠が分からないが若竹にもなぜか確信があった。理由は無いが8ヶ月目で自分の作ったネットワークの合計金額が100万ポイントを越える確信があった。

8ヶ月目に若竹の伝えた人数はわずか5人。先月と比べれば10分の1だが、その5人は全員がドリームロードビジネスに取り組みたいと言ってくれた。その活動もメゲることなく活発だった。そこから30日。8ヶ月目にして若竹のネットワークでの売り上げが100万ポイントを越えていた。予知は当たったのだ。

後から考えれば当たり前と言えば当たり前だが、初めて目にするドリームロードのカタログはその人にとって初めての商品だ。

そこに100%現金返済保証があれば多くの製品を購入するだろう。1人の購入では然程ポイントは稼げないがそれが100人以上となると話は別だ。

そのカタログの中には空気清浄機や浄水器、洗濯機や掃除機まである。専業主婦が買うには数十万円と高いが100%現金返済保証が付いてれば安心して使えるだろう。

それに加えドリームロードビジネス専用のローンも組めるのでドリームロードがどんな会社かを理解させれば二重の安心になる。

もちろん若竹も空気清浄機や浄水器、カタログにある物は女性下着や口紅などの化粧品以外は全て購入していた。

友人知人に勧めて行く中で製品の実体験を話したかったからだ。そして、

「文洋はとにかくカタログの製品を全部買うことが重要だよ。だって、自分が使ってないものを人に勧めるのはドリームロードビジネスでは健全とは言えないよ。自分が気に入ってこそ人に勧める、これが健全なビジネスでしょ」

そう言ってきた中金の言葉をすぐに実行したのだ。

それを1人でやっても100万ポイントは稼げないが100人以上となれば可能性は高い。この言付けを実行できる人が多ければ多いほどファーストステータス(100万ポイント)に近づけるが、本質を見誤る危険性もあった。

言付け通りにしなければ成功できないかも、、、、と言う恐怖だ。この恐怖がいつでも付き纏いいつでも中金から新しいアドバイスが来る。それは成功するためと言う理由の他に製品を購入すると言うことだった。

この恐怖が初めに感じた破壊へのヘアークラックだった。


しかし実際は若竹のグループの獲得ポイントの総数で決まる。100人いても1000人いても100万ポイント達成は100万ポイント達成だ。その翌月にドリームロード本社からファーストステータスの盾とピンバッチが送られてきた。

若竹の計算ではグループが100人を越えれば100万ポイントだとすると小売りや自家消費で成し得れる獲得ポイントは10万ポイントが限界だ。その理屈を当てはめれば6つのネットワークに10万ポイントを集める仲間が10人いれば100万ポイントに近づき、その10人が10人の仲間を集められればダイヤモンドステータスになれる。苦難ではなく楽勝の兆しさえ感じたが他人に頼ることは敗因になることはとても多い。他人に頼らなければネットワークは拡大しないが他人に頼ることはネットワーク拡大にはならない、この矛盾にさえ気が付かないこの頃の若竹はもしかしたらこの後やってくる偽りの序曲に参加する準備ができていたのかも知れない。

とにもかくにも小売りやマーケティングプラン説明、商品の説明、それをやり続けたら権利収入では無い。それをやり続けての年収1500万円は労働収入だ。若竹の考え通り小売りや商品説明で10万ポイントを集める人が最低10人いれば100万ポイントは越えるが、権利収入と言う意味では中金にとっての権利収入だ。

もうすでに、何をどうやれば、そしてどこを目指し、どうなれば自分と自分以外の友人が自由になれるかを考えることもできなかった。「自分だけでも成功する。そしたら状況は変わる」と本質を完全に見失っていた。

考えることが出来なくなった若竹でもファーストステータスを初めて達成した達成感は心地良かった。ファーストステータスと言う称号があるため中金と親しいドリームロードビジネスでの成功者に若竹のことを紹介する日々が多くなった。

若手の名前と顔は中金に親しい成功者に完全に覚えられ、凡人からすれば成功者と顔見知りと言うのはやはり浮かれ鼻が伸びる。若竹もその一人だ。

100万ポイントを達成した若竹グループのポイントは伸びた鼻の分だけ縮小しファーストステータス達成の翌月は10万ポイントにも満たない小さな成果しか残らなかった。その時に中金がアドバイスをくれた。

「自分の悪いところは2倍で伝わり良いところは半分で伝わっていくんだ」

自分の悪いことは2倍で伝わり良いところは半分しか伝わらないとなれば、自分の状態は中金のそう言うことが伝わったとなるのが道理だが、この場合、中金はその話の登場人物にはいないだろう。それが横浜のバーガーショップで約束した「手伝う」と言う言葉の意味なのだ。

しかしその言葉でさえ若竹は受け入れ、無理にでも心を晴れやかにするしかなかった。そしてこの時に理解したことは「中金さんは俺と一緒に成功をする気は無い。自分の成功のために俺を誘った」と言うことだ。ここでネットワークビジネスを辞める決断をすれば少しは良かったかも知れないが成功の二文字にしがみついていたいのが人の心情だ。もう誰のためでもなく自分のためだけにドリームビジネスをやるしかないと強く思うのだ。しかし自分のために成功することを決めた若竹だったがマーケティングプランを説明する時には「一緒に成功しよう」と言うしかなかった。それが本心の全てでは無いことを知りながらもそう言うしか無いのだ。もうすでに若竹の初心は無かった。


やると決めたらやる若竹であったがネットワークは伸びない。ネットワークの人数が増えない。故にポイントも伸びない。

努力とは正反対の結果に苛立つがこの時にある別の疑問が浮かんでいた。

この頃、中金が家賃25万円のマンションから良子の実家に引っ越していた。場所は川崎の外れの住宅街だ。理由を聞くと「良子の母親の体調が悪いので近くで面倒を見たい」と告げられ、それは人のモラルにとても美しく映ったが、成功者が実家に住むと言う不自然は否めなかった。

「まあ、権利収入とは言え年収900万円だし、親のことを思うのは当然だから、そう言うもんなのかもね」

と、曖昧な納得でしか尺には落とせないのが事実だった。

基本的にはドリームロードビジネスは個人と個人の付き合いが基盤でその収入の使い道は人それぞれ。豪華な家に住もうが貯金に回そうがそれも自由だ。母親の看病をすることは金持ちでも貧乏でもそれを悪い方に決めつけるわけにはいかなかった。

そう言えば若竹は中金が作ったと言う3つのリーダーステータスの人に会ったことがない。以前会った太田や川越、六角とは中金のマンションでミーティングを重ね既に顔見知りになり時折、ミーティングの帰り道に食事をする仲になっていた。太田チコとは気が合うのかよく電話やメールでお互いの夢やグループの人数を確認しあい来年にはダイヤモンドステータスに手を届かせようと登る急坂を分かち合っているかのような仲であった。川越は結婚が近いのか遠距離恋愛をしていた彼女を東京に呼び同棲を始め数回しか会ったことがない恋人は爽快な明るさを持ってはいるがどこか淑やかな雰囲気をも併せ持つ女性だった。六角は元ヤンキーかも知れないと言う鋭い目付きをしていたが根は優しくとても親切な男だった。その目付きから川越や太田の作るグループのメンバーからは犬猿されていたが若竹にとっては同い年と言うこともあり臆することなく付き合えた。そしてこの3人は中金の言うリーダーステータスではないのは承知していた。

中金の持つネットワークのリーダーステータスの人とはどんな人なのだろうか。至極当たり前の疑問を持つようになったのは誰にでもあることかも知れない。

中金夫妻が芦花公園から川崎に越してからは3人になかなか会う機会も減ったがある時、大宰府エグゼクティブステータスの好意で大宰府エグゼクティブステータスのオフィスを使わせてもらえるようになっていた。場所が恵比寿と言うのもアクセスが良い。また同じ部屋でドリームロードの楽しみを話し合える場所が出来たのだ。しかし若竹には疑問が残る。

大宰府と中金の収入は大きく違えど明らかに一般人よりは裕福なはずだ。なぜ中金はオフィスを持とうとしないのか、そしてなぜ実家で暮らすのか、もしかしたら人としての道理と金銭的な何かが合致しないプライベートの事情があるのかも知れないし、その逆に大した収入もないのかも知れない。そんな疑問頭を過ぎるようになったがプライベートの事情に口出しは出来ない。良くも悪くも中金はエメラルドステータスで年収1000万円、若竹はたった1回の月収20万円をドリームロードビジネスで手に入れた関係を続けるしかないのだ。

川越、太田、六角、若竹の4人はほぼ同時にドリームロードビジネスを始めた。その中でいち早くファーストステータスになったのは若竹だ。ファーストステータスになってから2ヶ月が経ちある伸び悩みにも慣れてきた頃、このビジネスで成功を目指す者も5人も登場しその5人も100万ポイントを目指し出した。その5人にとっては初めに始めた若竹がファーストステータスを達成したことが大きいのかも知れない。前を走る者が後に続く者を牽引していき後に続く者は前を走る者に追いつきたいと願うのだろう。若竹のグループ人数は徐々に増え300人を越えていたが、リピートしていくポイントは80万ポイントを前後する状態で100万ポイントをクリア出来ない。ネットワークビジネスは人数勝負では無いが人数は重要だ。

そんなある日、中金から川崎の実家に来ないかと誘いがあった。ドリームロードビジネスの話を2人でしたいと言う提案だった。

「、、、、、?」

作業は既に分かっていたし、哲学的な何かがあるとしたら電話で済む。恵比寿のオフィスで話せば良いような気もしたのだが、気分転換になることを期待して川崎に向かった。車を走らせたのは塗装の仕事が終わった夕方だった。

テーブルに着くと中金が話を始めた。

「文洋がファーストステータスの達成して次はネクストステータス(2回目の100万ポイント)って言うのも理解してるよね?」

「はい」

「でさ、ファーストステータスになってどうなった?」

「どうなった?、、、それはどう言う意味ですか?」

「文洋のネットワークが伸びて大きなネットワークになったでしょ」

「まあ、そうですね」

「これは、そう言うことなんだよ」

「え?どう言うこと?」

「文洋が100万ポイントを越えるとネットワークの誰かは100万ポイントを越えるように努力しだすんだ。まあ、実際はなかなか結果は伴わない場合もあるけど、主要メンバー5人が100万ポイントを目指すようになったのは、文洋がファーストステータスになったからだと思うよ」

「ああああ、なるほど!」

「と言うことは、文洋がネクストステータスになると文洋のグループの誰かが1回目のファーストステータスになる理屈だと思わない?」

「まあ、理屈ではそうかも知れないですね」

「でさ、、、、、、提案なんだけど、、、、、」

「はぁ」

「文洋のネットワークが100万ポイントまでに足りない分を俺がお金を出して、文洋の名前でドリームロードから購入して100万ポイントを達成してネクストステータスになると言う提案はどうかな?」

「え?、、、、言ってることがよく分からないんですけど、、、、」

「だから、何としても文洋をネクストステータスにしたいんだ。そうすれば文洋のグループから本気で100万ポイントを達成する人が現れると思うんだ。そしたら万が一にもその人が100万ポイントを達成出来なくてもそれなりのポイントは作るから今の文洋なら残りのポイントを自力で作れるでしょ。そしたら文洋自身は100万ポイントをクリアしやすくなると思うんだ」

中金の提案は驚きだった。100万ポイントに足りないポイントを買ってしまおうと言う乱暴な提案だ。それはドリームロードビジネスにおいて当然意味のない行為だ。そしてこの時我に帰ったのは若竹だった。努力すれば自分の結果をある程度保証してくれるビジネスチャンスだと思い疑わなかったのに、お金で結果を買おうとしているのが、数ヶ月前に平等で安全で健全なビジネスを興奮しながら伝えてきた人が言い出したことに驚きを隠せなかった。

「、、、、、えーっと、、、それは金で解決しようと言うお話ですか?」

「まあ、乱暴な言い方をするとそうなるね。でも未来への投資と思えば俺もお金を出した甲斐があるってことでしょ」

「ちょっと待ってください。それは、、、つまり、、、イカサマでビジネスの成功を作ると言う話ですか?」

「、、、、イカサマは人聞きが悪いよ。文洋は本気で取り組んでいるだろうけど、その本気を文洋のグループの誰かに着火させようって言う提案だよ」

「いやぁぁ、、、、それはあまり良い結果にはならないような気がしますけど、、、それにそれは絶対に良くない方法ですよね」

「でもさ、文洋が目指してるのは仲間もダイヤモンドステータスになることでしょ。だったら早くそうなったら方が良いし、たった1回の、、、文洋風に言うとたった1回のイカサマで一気にダイヤモンドステータスになれるかも知れないと考えたらそれも手だと思うんだ」

「でも、、、気乗りしないですね、、、、、」

「文洋の作ったグループの人らが思うのは、たった1回100万ポイントを越えただけの話で、あとが続かないビジネスなんだねと思われたらそれはそれで今までの努力が水の泡になるかも知れないよね」

「、、、、、まあ、それはそうかも知れないですけど」

「考えるより実践してどうなったかを確認しても良いと思うんだ。もし結果的にイマイチの結果なら、まあ、残念だけど、この提案は失敗だったと思えるし、もし予想以上の良い結果だったらそれはそれで成功だし。どうだろうか、1回だけ足りないポイントを俺らがお金を出すからやってみない?」

「、、、、、、」

沈黙するのは当然だろう。

「やってみよう」「気が進まない」「文洋に成功して欲しいんだ」「それは成功じゃない」「今回だけ俺の提案をやろう」「その提案は詐欺だ」と押し問答の時間が2時間を越える頃、決着のつかない話に苛立ちを覚えた若竹は意を決して答えた。

「、、、、、分かりました。今月はそうしましょう。できる限り自分でポイントは集めて出来たら自力で100万ポイントをクリアしますが、万が一にもクリア出来なかったら中金さんのお金でクリアしましょう。ただし!ただし、そのイカサマその1回だけです。そんで、今度、二度とこの話はしない。俺も忘れます。中金さんも忘れてください」

この時でさえ若竹は気が付いていなかった。言い方を変えれば「ネットワークのみんなを一回だけ騙そう!」と言う提案を飲んでしまった。

偽りの序曲が始まったのだ。

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この物語は筆者が経験したことを基に描いたフィクションです。

I can not doing /俺にはできない 5/14へ続く