[ノベル] I can not doing /俺には出来ないよ 5/14「太田チコの達成」
ちょうどその時期に太田チコと好い仲になりそうな雰囲気を持っていた若竹はどうしても太田に良いところを見せたい見栄もあった。この時、太田は残念ながら100万ポイントをクリア出来ない状態のネットワークが続いていた。
アドバイスを太田に色々としていたのは同じ仕事に懸けていた同志と言うこともあったが、好意を少し持っていたためその熱は少し高いものだった。太田も少なからず若竹に好意を持っていた。しかしそれは恋人と言うことではなく同志と言う域をなかなか抜け出せない間柄であった。
川崎の中金の実家で出された提案が実践されたのはその月のラスト5日目だった。それまでイカサマなんかやりたくないと言う一心でその月を活動したが、健闘虚しく努力はいつもの80万ポイントで止まった。
「残り20万ポイントってことは20万円かぁ、、、文洋って10万円なんとかならない?」
またもや驚くことを平然と言ってのける中金に呆れた。
「、、、、、無理ですよ。10万円なんて」
「そっかー、じゃあさ、今回は俺が20万円を出すよ」
「今回って?この1回だけですよね?」
「もちろん、、、、あ、あと、100万ポイントで20万円が入ったら、そのうちの4万円は俺に振り込んでね」
「、、、、、あ、そうですね、、、20%分、、、、、、」
「振込手数料は文洋が持ってよ」
「、、、、、、、」
「だってさ、ネクストステータスになれたんだから、それくらいは持ってもらわないと」
「、、、、、、、」
「聞いてる?、、、ネクストステータス達成ってスゴイことなんだよ」
「、、、、、聞いてます、、、、分かりました、、、それじゃあ」
その月の月末、若竹のネットワークの獲得ポイントは101万ポイントを達成し若竹はネクストステータスになった。会社から盾とピンバッチが送られてきて、大宰府エグゼクティブステータスのオフィスで多くのドリームロードのメンバーから祝福受け、アチーブメントスピーチとして短いスピーチを披露したが、その本心はとても虚しい気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうございます。まだ努力しなければいけないピンレベルですが、、、、、、みなさん、これからもよろしくお願いします」
空っぽに近い気持ちのままだ。信じた仕事が結局はお金で解決し余計な事まで気を揉まなければいけないこの事実を誰かに告白することも出来ず中金を責めるにはあまりに身勝手な自分を感じていたため、この虚しい気持ちは自分だけの心も奥に仕舞うことにした。その次の月から若竹は気狂いしたようにポイントを集めだしリピートする法則を独自で見つけそれをドリームロードビジネスで成し得たいと思ってる仲間に伝えた。
独自で見つけたリピートさせる方法は至って単純なものだった。
「月に100万ポイントを目指すから達成しない。月に最低でも200万ポイントを目指すんだ。それはネットワークでも良いし小売でも良い。落ちないポイントボトムをハッキリさせることが大切。100万ポイントを実際に達成して次の月に30万ポイントならボトムは30万ポイント。要はボトムのポイントが実際の権利収入になる部分。それを少しづつでも良いから上げる努力は仕方がないんだ。100万ポイントがボトムになればもう落ちない。数字は適当だけど100目指したら80いけば良い。200目指せば100は行く。なんかそういう理屈なんだ。なんちゃらステータスって言う称号は本当はどうでも良いものなんだ。その称号に惑わされてはいけないんだ。称号を手にするためにドリームロードビジネスに参加したわけじゃないだろ。権利収入を手にするためだろ」
自分のグループに熱量をマックスに伝えていった。
中金のための労働者になるために参加したんじゃない。自分は自分の目標のために参加したんだ。恐怖に曇った気持ちを無理矢理にでも晴れやかにした。
そのせいもあってか、3回以上の100万ポイントを達成しリーダーステータスとして若竹は本社から盾とピンバッチの表彰を受けた。しかしそのピンバッチと盾はダンボールから出すことはなく部屋の隅に置かれた。そんなものはどうでも良かった。それにそのうち1回はイカサマだ。
それからというもの300人以上いるグループ全員とはいかないができる限りグループの人とコミニケーションをとり確認をし合い相手に無理強いのない努力の言葉をかけ少しづつ若竹のボトムのポイントは安定していった。100万ポイント達成は自分自身のためにやるんだ。ここからはイカサマ無しだ。
若竹は今一度頭を整理した。まずは自分のポイントのボトムを100万ポイントにしなければいけない。次に仲間のグループのボトムを100万ポイントにしなければいけない。そしてその次にそのグループから6つの100万ポイントのグループを作り、初めて終わりだ。それが初めに描いた自分のドリームロードビジネスだ。「お前のため」「一緒に成功しよう」と言ったからにはそこにたどり着くまで満身するわけにはいかなかった。
「ネットワークを作ったんだ。それが事実。俺のネットワークを中金のようなイカサマにしてたまるか!」
そう思うことで強く邁進できるのは若竹の本質がそうであるからかも知れない。
たった1回のイカサマを振り払うかのように鬼神の如く成りふり構わずドリームロードの製品を売りまくった。
しかし本来ドリームロードビジネスは売ることが目的ではなくネットワークを作ることによるリピートでその収入を若竹や中金が得るのが良い形だ。売ることはパワーが必要だ。ネットワークのボトムになるポイントは安定したが、その低いポイントをボトムとしてグループに言うわけにはいかなかった。何故ならこの時の若竹はドリームロードの製品の良さよりも100万ポイントをクリア出来なければ、またイカサマを提案されると言う恐怖から売りまくることを選んでいたからだ。売りまくったポイントもボトムのポイントとしてグループには伝えていた。イカサマも間違いだが、恐怖から逃れるための売り込みも本質を逸脱した大いなる間違いだった。そして売りまくったポイントをボトムのポイントとしてグループに伝えることも間違いだった。
若竹の持つ恐怖で得をしたのは中金だった。若竹文洋と言う労働者を得て中金夫妻に権利収入5%をもたらす。
「もし自分のような奴が6人いたら、、、、、」
そんな怖いことさえ思う時があった。若竹文洋王国に6人の労働者がいたらダイヤモンドステータスになれるかも知れないが、自分が言い放つ「一緒に成功しよう」と言う言葉の重さに若竹は負けるだろう。
「もうイカサマは嫌だ」その思いは中金への信頼を完全に無くしていた。仲間を成功者に会わせなければ成功出来ない仕事では無いはずだ。中金にできる限り近づかないことも心に留めていた。
しかしこれはネットワークビジネス。若竹の知らないところで仲間が中金とコミニケーションをとり、ドリームロードを信じたその心にイカサマの提案をする可能性もある。
中金に仲間が会えば同じイカサマを勧められる可能性は高い。そして自分と同じ思いをする可能性もある。この惨めな思いを仲間に経験させるためにドリームロードビジネスを始めたわけではない。仮に中金のようにイカサマをなんとも思わずにやれる仲間がいたとしてもネットワークビジネスはその先に新たな仲間が登場する。イカサマに甘えたら全体がそうなる。イカサマビジネスになる可能性はゼロではない。
枯れ果てそうな気持ちを支えたのは、このイカサマを知らぬ仲間が一緒に成功しようと言ってくれる言葉があったからだろう。
そんな心を救ってくれたのは太田チコが100万ポイントを達成しファーストステータスになったのは若竹が4回目の100万ポイントをクリアした月だった。太田も若竹同様に大宰府のオフィスで祝福を受けアチーブメントスピーチを披露した。
「ありがとうございます。やっとファーストステータスになれました。中金さんや大宰府さんのフォローも感謝してます。それに同時期に始めた若竹くんが私の先を走ってくれていてその背中に早く追いつきたいと思ってました。少しだけ追いつけた気がします。ここにいるみんなが早くダイヤモンドステータスになってみんなで遊びたいですね。ありがとうございました」
とても初めて皆の前でスピーチをする女性とは思えない喋りっぷりだ。若竹にとっては自分の名前を言ってくれたことが何よりも心の支えになっていた。イカサマをたった1回やったとしても誰かの役に立てたことは自分を支えている唯一残された支柱のようなものに感じた。
太田チコの達成を今度は自分自身の活力に変え必ず1年間落とすことなく100万ポイントを達成しようと心に決めたのだ。
「、、、、良し、、、、また初めからだ。俺は大丈夫、、、、初めからやると思えば良い、、、中金さんなんかいなくても成功できてこそのネットワークビジネス」
その決意を後に裏切るような親切がドリームロード本社からの小冊子に記載があったのは年の暮れ12月のことだった。
ネットワークビジネスの闇を上手に利用する男はなんでも利用するのだ。若竹から100人離れたネットワークで登場する誰かでも利用できるのがこの仕事だ。
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この物語は筆者が経験したことを基に描いたフィクションです。
I can not doing /俺にはできない 6/14へ続く