[ノベル] I can not doing/俺には出来ないよ11/14「夢を人質に取られた誘拐事件」
「おおおお、早かったね」
時計を見ると5時45分だった。良子がテーブルの真ん中で書いている途中のスケジュール帳を閉じた。
「あと15日あるから大丈夫って言ったけど、少しでも早くポイントを集めましょ。で、買ってくれそうな消費者をまず書いて、それで、ネットワークに参加してくれる人も書こう。それを順番にあたって行きましょ」
「あ、はい」
ノートに知り合いと言う知り合いを全員書き出し、名前の横に買ってくれそうな製品をいくつか書いた。ネットワークに参加しそうなリストも作り名前の横にその場で購入してくれそうな製品を書いた。それを合計しても30万ポイントにしかならない。残りの20万ポイントがどうしても思い付かない。あそこのおばさんには洗剤や化粧品、工場に勤めてる後輩にはサプリメント、ちょっと金を持ってそうなあの家には空気清浄機、金が無いと口癖になってるアイツにはドリームロードビジネスのマーケティングプラン、、、、
横を見れば六角も同じことをやっていた。
2時間が経過したころ、アイデアも底を尽きだした時に良子が告げた。
「今日はこれで帰ろう。私も予定があるし、文洋くんは帰ったらアポ取って実践していきましょう。なるべく早めに全部当たって結果を出さなきゃね」
「そうですね。帰ったら早速」
「六角はどう?」
六角が書いていたのは若竹と同じリストだった。六角は友達が少ないのかリストを作ることにも苦労をしている様子だ。
「んんん、、、、六角は、全員、マーケティングプランを伝えて行きましょう。ポイントは後回し。人数が足りないからとにかくネットワークを伸ばしてグループ人数を増やしましょ。製品はリピート、マーケティングプランは可能性よ」
そんなアドバイスを聞き終わり家に帰った若竹の着信履歴に太田チコの名前あった。
直ぐに掛け直すとチコが暗い声で出た。
「どうした?」
「、、、、、あの、、、」
「ん?」
「誰にも言わない?」
「言わないよ」
「中金さんにも良子さんにも」
「言わないって」
若竹が良子と会っていたその時間に場所を他に太田は中金と会っていた。
その内容は若竹の驚きと怒りを再熱させるものだった。
太田チコのネットワークの稼げるポイントは平均30万ポイントなのは知っていたが、残りの70万ポイントを中金と太田の折半でお金を出し合って100万ポイントをクリアしようと言う提案が持ちかけられていたのだ。ここでも暗雲に更なる黒い霧が覆いかぶさってしまう。
「私、、、前に70万円使ったから、もうお金無くて、、、それを言ったら、折半は折半だけど、貸してやるって」
「貸す?」
「そう、中金さんから借金してポイントを稼ぐことになりそうなの」
「、、、、、!」
「私、、、、、」
「断った方が良い」
「断れないよ」
太田チコも夢を人質に取られた誘拐事件の被害者になっていた。
「チコちゃんのネットワークって何人?、、、、ネットワークの中からビジネスとしてやってる人って何人?」
「ネットワークは100人くらいで、一緒に成功しようって人は、、、、」
「いや、いい、、、、そこは良い、、、、100人かぁぁ」
ドリームロードで成功を目指している人がチコの周りにいないを察しそこを突っ込んでも仕方がない。
「なんで?」
「もっと少なかったら、全員に解約を勧めていけると思って」
「解約?」
「うん。もうそんなことに付き合うならドリームロードビジネスなんか辞めた方が良い」
「、、、、、」
自分がとんでもないことを言っているのは分かっていたが、そうでも言わなければこの事件の犯人は罪を逃れてしまう。
しかし、これ以上の問答は太田を苦しめることになりそうだったので話を変えた。
「、、、、あの、、今月、俺、100万ポイント達成するんだ、頑張ってるんだけど、3月にリーダーステータスなったら約束の食事、覚えてる?」
「覚えてるよ」
「じゃあ、そのお店でも探しておいてくれると嬉しいなぁ」
「あ、探しておくね。でも若竹くんが中金さんの1ラインになってステージに立つなんて羨ましいなぁ」
「、、、、、?、、、1ラインでステージ?、、、なにそれ?」
「え?知らないの?中金夫妻、今年でダイヤモンドステータスになるのよ、で、その6ラインのリーダーステータスの一人が若竹くんでしょ」
寝耳に水とはこのことだ。いったい何が起こってるのか理解できない。
「え?チコちゃん、それ、初めから説明して」
若竹が中金と口喧嘩をして気力を失っていた5日間の間に中金夫妻はダイヤモンドステータスを達成する時を5月と決めグループの主要メンバーのみならず中金に近しいドリームロードビジネス成功者にコミット(宣言)したらしい。その6ラインとは若竹、川越、六角、そしてエメラルドステータスの3ラインの合計6ライン。太田チコがダイヤモンドステータスの6ラインに入っていない理由は分からないが太田は7ライン目にあたるようなので今回は違うらしい。そこのところが不自然だったがそれは後になって知ることになる。
更にダイヤモンドステータスの達成イベントはキャパ1000人の会場を押さえ、日にちは6月20日の日曜日。会場の予約金も支払ったらしい。
そんな話を知らなかったのはその中では若竹だけだった。おそらく口喧嘩で終わったあの電話で中金は若竹に告げるつもりだったのかも知れないが思わぬ展開に告げることが出来なかったのかも知れない。
「まじで?」
「え?知らなかったの?」
「知らなかったよ」
「でも中金さん、若竹くんは余裕だって言ってたよ」
「、、、、余裕ではないけどね」
「でも良いなぁぁ、、、私はその日にリーダーステータスを達成した1人としてステージに上がりたいって言ったら、、、、、、」
「言ったら、、、、!」
話が元に戻ってしまった。中金のダイヤモンドステータスの達成イベントはおそらく祝福ムードで行われるだろう。単純に考えればステージに上がる人たちは何かしらのピンレベルを達成していなければならない。その中に太田チコが入るとすればチコが何かのピンレベルを達成しなければいけない理屈だろう。太田チコとそのネットワークでは100万ポイントはおそらく無理だ。そこで中金から借金をしてドリームロードへ大量注文すれば自然と100万ポイントに近づいていく。太田チコも若竹も引いて見れば中金のネットワークの中の1人だ。中金からすれば自分のネットワークから1人でも多く達成者が出ればイベントにもハクが付きそしてイベントも成功となるだろう。中金からの借金の提案を太田チコが断れないのはネットワークビジネスで成功している姿を見せることが自分のネットワークの人たちへの信頼に変わると思い込んでいるからだ。ドリームロードで成功すると言う夢を人質に取られ夢を返して欲しくば成功したフリでもしろと言うまったく意味のないことなのだが、自分がステージに立つ成功者を見たから自分もやる気になった経験から太田は断れないのだ。真理までもが歪に不潔になっていることを分かっていても夢を選ぶしかないのだろう。
勝手な想像ではあるが、中金にとっては自分の知り合いが成功することに加えドリームロードのネットワークだからこそ出会った太田チコと言う成功者を作りたいのかも知れない。そのお花役に抜擢された1人が太田チコだ。立たなくても良い舞台のお花役として白羽の矢が立ったと推測するのは容易だ。しかし当の本人の太田はそんなことよりも中金との折半のお金の方が心配でならなかった。
「、、、、私、もうお金、、、なくて、、、お母さんにもこの借りちゃったし、、、」
中金のネットワークが何千人いるか知らないが、おそらく主要な顔ぶれは若竹とも仲の良い顔ぶれが全てだろう。けっきょく中金はネットワークで権利収入を得てはいる(?)が、そのネットワークの連中は中金のためにネットワークを作り売りまくり買いまくり少しのリピートしか無いために夢を人質に取られ無差別誘拐事件に巻き込まれているのだ。それが幸か不幸かは測ることができないがそれが中金の導くドリームロードと言うネットワークビジネスなのだ。
「、、、、、、チコちゃん、チコちゃんに残された道は、中金さんと折半なんかしないで、もう何十万円も自分で購入することなく、自力で100万ポイントを稼ぐしかないよ」
「、、、、、だよね、お金ももう無いし、なんかインチキで達成するみたいで嫌だもん」
「そうだよ、一回、インチキをしたらまたインチキをやるようになるんだ、だから絶対に中金さんとの折半なんかダメだよ。それも借金しろ!って、どうかしてるよ」
「、、、、、ありがとう、、、、若竹くん、リーダーステータスになってね、、、、そしてら、、お祝いで食事行こう、、、、あ!若竹くんおごりね、私、70万円、、、、使ってお金無いから」
「もちろん!」
チコの途切れ途切れの声に応えることが精一杯だった。最悪な知らせだったが、良子に言うべきかどうかも分からない。それを良子に告げて解決できる可能性は低い。なぜなら良子は中金吉夫と夫婦でありビジネスパートナーだ。
そして若竹が太田の事情を口外したら太田チコから誘拐された夢と責任が殺されるかも知れない。その可能性がある限り口を閉じるしかない。
================================
この物語は筆者が経験したことを基に描いたフィクションです。
I can not doing /俺にはできない 12/14へ続く