[ノベル] I can not doing / 俺には出来ないよ13/14「人形の作り方」
その勢いがあってか2月は6ラインのうち3ラインが100万ポイントを達成し、3月は6ライン全員が100万ポイントをクリアした。この時点であの時会った初めての3人と若竹を含めた4人がリーダーステータスを達成したことになる。
問題は残り2ラインである川越と六角だ。
100万ポイントをこの4月か来月5月のそれぞれどちらかで達成すれば晴れて中金はダイヤモンドステータスとして祝福を受ける。
4月が過ぎ5月中旬のある日、若竹は川崎にある中金の実家に呼ばれいた。何の用事か分からなかったが、中金の図々しい性格からして達成イベントの段取りを手伝えと言うだろうと踏んでいた。
しかし、予想は遥かに違っていた。
実家の玄関を開けると三段に積み上げられた段ボール箱が何列にも並びドリームロードと段ボールに印刷がある。その中身がドリームロードの製品であることが容易に想像出来た。
「おおおお!いらっしゃい!入って入って」
席に着くや否やさらにチャイムが鳴った。大きな声で中金が招いた。
「六角?入ってー!、、、、段ボールは適当に中に入れて!」
「どうも、お邪魔します。川越さんから預かった製品も持ってきたんですけど、、、」
「いいよ、適当に置いておいて」
「、、、、、?」
話が全く見えないまま若竹を横目に六角は大きめの段ボールを数個部屋に入れた。
「これは?」
「ドリームロードの製品だよ」
「それは分かりますよ、じゃなくて、こんなに、どうしたんですか?」
「それを今日、話そうと思って文洋を呼んだんだよ」
「、、、、、?」
全く分からなかった謎が数分の説明で全て把握できた。表面的にはとてもシンプルなイカサマだった。その内面は濁りすぎて前が見えないほどの複雑かも知れない。
中金が今回達成を目指すのはダイヤモンドステータス。ダイヤモンドステータスには1月1日から12月31日までの1年以内に100万ポイントを3回以上達成する6ラインのネットワークが必要だ。
ネットワークビジネスにおいて単純なルールは、自分から発進したネットワークを広げそこで購入された商品にポイントが付きそのポイントの合計で会社(ドリームロード本社)からボーナスとして現金が振り込まれる。そのルールは参加している誰もが同じ。同じルールでネットワークを広げているので平等な収入の分配となっている。ドリームロードから発売されている商品は必要品で消耗品が多いため継続的なリピートが期待でき、それが権利収入となる。その100万ポイントの計算期限は1日から末日までと言うルールで計算される。
今回、中金が達成した方法を説明されたが若竹は驚きを通り越して、乾ききった砂漠のような気持ちを持ったのだ。
まずこの前に初めて会った垢抜けない3人の3ラインは実際に存在するが平均獲得ポイントはせいぜい20万ポイントが限界の3ラインだ。3ラインだと平均で240万ポイント足りない。この足りないポイントを補う方法が問題だった。
簡略して言うとこうだ。
・この240万ポイントを補うために中金自身が製品を小売する。
・その注文を中金がするのではなくあの垢抜けない3人にしてもらう。
・そうすることで垢抜けない3人はポイントを得るのだがそのポイントは中金のポイントにもなる。
・それでも足りない数十万ポイントは中金がお金を出し3人に注文させる。
これで垢抜けない3ラインが完成した。しかし話はここで終わらないのだ。
その3人にはドリームロードから最低でも60万円が振り込まれる。その60万円のほとんどは中金の小売の結果と言う理由でほぼ60万円が中金のものになる。そのうち20万円を川越に渡す。その金で川越はポイントを稼ぐためにドリームロードから購入をする。川越のネットワークの平均獲得ポイントは若竹同様に80万ポイントだったので20万ポイントを補うには十分だ。それでも足りない分は川越が自己消費ということで購入する。これで4ラインが完成した。
問題は六角のグループだ。本来誰かのグループのポイントを他のグループに回すと言うのはルール違反で中金の作った4ラインは全部違反なのだが、六角の平均獲得ポイントは20万ポイントが限界で80万ポイント足りない。金額にすると80万円だ。
この80万ポイントの補い方が卑劣とも言えるやり方だ。
・六角が六角名義で洗濯機や空気清浄機などの大型製品をローンで50万円分を購入する。
・六角には支払えない金額だと先読みした中金はこのローンの支払いを折半することを持ちかる。
これを六角は承諾し50万ポイントを獲得した。しかしまだ30万ポイントが足りない。そこで登場するのが若竹と太田だった。
まず若竹グループは中金から見ればダイヤモンドステータスの条件をすでに満たしているグループだ。なので条件以外の達成は必要ない。
若竹のネットワークの中から10万ポイントを目安に注文がありそうな人を中金が見つけ六角の注文にすれば六角のポイントとして計算される。相手に渡す製品は中金の家にある在庫から渡す。これでおそらくは六角の足りない80万ポイントはかなり少なくなるだろう。
そしてさらに驚いたことは太田チコだ。先日、恵比寿のオフィスで間違いなく太田はネクストステータスとして祝福を受けていた。しかし100万ポイントのうち30万ポイントは注文していなかった。その理由は六角のグループのポイントが足りないことを中金が予期してその30万ポイントを今回六角の注文に回すことになっていたのだ。詳細は実にシンプルだ。
太田のグループは平均40万ポイントの獲得が見込まれる。しかし太田チコ本人が製品コマーシャルをしなければ注文が取れない。逆を言えばコマーシャルさえすれば安定の40万ポイントだ。
・太田は自分のグループや過去の消費者に製品コマーシャルをし、そして注文が確定するとその注文を本人ではなく自分でやると説明し承諾を得る。
・注文された製品は太田が以前70万円分を購入した際に持っていた在庫から相手に渡す。正式な注文はしない。これを繰り返すと70万円分の在庫は少しづつ無くなる。
・そしてその貯まった注文を中金がまとめて六角の名前で注文する。これで間違いなく六角は100万ポイントを超え6ラインの完成だ。
しかし問題は太田の達成はドリームロードには記録されない。その点への中金の言い分は「ドリームロードの達成記録は2~3ヶ月タイムラグがあるから今月達成すれば問題ない」と言うことだ。
若竹の達成記録はすでにリーダーステータスの達成となっているのでこれ以上の達成は必要ないと言うのだ。
若竹と太田のもらう本来のボーナスはドリームロードとは無関係に中金が行い貰えるはずのお金は正確に支払うと話した。
形は違うが以前やったイカサマで六角を成功者にしてしまい、太田を成功者にせず、若竹のネットワークを中金のエゴで操作する結果がそこにはあった。
若竹は直感的に思い出した。自分のグループの足りなかった30万ポイントが、、、、、結果的に101万ポイント、どこかで見たことのある数字だ。
「ちょっと待ってください」
「ん?」
「先月の俺のグループのラストで足りないポイントって、、、、、」
「あ、あああ、あれね、あれはチコが小売で30万ポイント貯めてたから、で、若竹じゃ残り1日で30万ポイントは無理でしょ、だから俺が代わりに注文してポイントを稼いでおいたんだ」
「、、、、、、、!」
以前、教えたインターネット注文が出来るタイミングで暗証番号を教えていたことを思い出した。暗証番号さえあれば誰でも注文できる。IPアドレスまで調べるわけがないし登録のIPアドレスで無かったとしても「電池が無くなったのでPCを貸した」と言えば問題にならない話だ。
混沌とした嫌な思いが浮かび上がるのだ。またもやイカサマを仕掛けられたのも悔しいが、おそらく中金は今回使ったお金の回収方法も視野に入れているだろう。6月20日に開催される中金のダイヤモンドステータス達成イベントのキャパは1000席。それに加え立見も100席以上は出るだろう。チケット代が3000円だとしたら300万円以上の売り上げになり会場費などを引いても200万円は残るだろう。そのお金から若竹や太田に正式なボーナス金額を渡し六角との折半したローンの返済に充てる。それでもまだ100万円が残る。しかも3rdボーナスとして年末までに最低でも1800万円のボーナスが入る。加えてダイヤモンドステータスを達成したと言うことでスピーチの依頼も増えるだろう。夫婦別々で月に5回やれば60万円だ。
若竹は思った。「いったいこれは、、、、何なのか?成功って?権利収入って?、、、、、」
我を何とか取り戻そうとしたが最後まで取り戻せず呆れ返ってしまった。何もかもがイカサマだ。
「今日、呼んだのは、文洋には俺の達成の内容を話しておいた方が良いと思ったんだ」
「これって、イカサマですよね?騙してますよね?、、、、」
「騙してないよ、俺も実際には240万ポイント稼ぐのを頑張ったし、それとも文洋のネットワークから注文を取ったことを内緒の方が良かった?」
「そう言う意味で言ってんじゃないんですよ、そのやり方はイカサマでしょ?って言う意味ですよ」
「ポイントを作るのが仕事だから結果的にポイントになってる、、、だからイカサマじゃないね」
「、、、、、そうじゃなくて、ドリームロード製品のファンを作るのが仕事ですよね?、、、、他人の暗証番号で注文するのってルール違反ですよね?」
「あのさ文洋、これって仕事なんだよ、そんでドリームロードの仕事はチームプレイなんだよ、何をイラついてるのか知らないけど本当なら俺の達成を文洋も喜ぶ出来事なんだよ、未来の自分を見てる感じって言うか」
「だから、達成出来てないですよね?イカサマでしょ?ルール違反でしょ?騙してんじゃん」
「誰も損してないんだよ、まぁ、イカサマだとかルール違反だとか穏やかじゃないことを言うけど誰が損したのさ?」
「損とか得とかじゃなくて、ネットワークを作ってそこから売り上げが、、、、」
「文洋、いい?誰も損をしていないんだからそれで良いんだよ」
「、、、、、これからも、、、、ドリームロードを続ける限り中金さんの自由に操作できるってことですね」
「いや、文洋のネットワークが100万ポイントを落ちないようになったら俺の仕事はないよ」
逆を言えば若竹が100万ポイントを落とすのであればいつでも同じ手口を使うと言う宣言にも聞こえた。
中金と言う男の本質が見えてしまった。ここにいる誰もが「貴方のため」と言われたり「夢のために」と言う言葉で可能性を感じただろう。しかしこのネットワークに参加すると言う意味は「中金のため」だったのだ。
ネットワークビジネスは人数では無いが人は必要だ。その「人」が中金のための「人」だったのだ。
「、、、、、俺、達成イベントに立たないですよ。アホらしくてやってられない」
「、、、、、そう言うなよ、調和を乱すことを言わないで欲しいんだ。会場のキャンセル料金もバカにならないし、文洋がいないと花が欠けた感じだし、達成イベントをやらないとチコに支払う金も作れないんだ」
けっきょく中金にとって若竹も太田も飾り付けの花なのだろう。頭の中ではすでに達成イベントでの売上金の支払い分配も出来ているのだろう。
呆れ果てた若竹の夢への情熱はこの時に完全に消え去った。
中金の顔が気持ち悪かった。吐き気がした。醜いその顔と対峙することに嫌悪を隠せなかった。
この気持ち悪い顔の男に、夢の可能性を感じていた自分が腹立たしかった。
自分が恥ずかしくてたまらない。
空っぽだ。
気持ちが空っぽになった。
それはまるで作られた人形のように心は無いが、よく出来た人間のような人形の若竹文洋が座っていた。
返す言葉を見つける力も消え失せ、いつ帰路に着いたかも分からない。
しかし人形に心も記憶も必要ないのだ。
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この物語は筆者が経験したことを基に描いたフィクションです。
I can not doing /俺にはできない 14/14 最終話へ続く