[ノベル]スパンキーサマー/第1話/最後の晩餐
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船長の藤岡が声をかけた。黒川物産の事業の1つである「本格アドベンチャー宝探し」に向かう船中だ。今回の募集では子どもたちの夏休みを利用してか3家族が和気あいあいと乗っていた。
「お父さん、リーダーって。呼んでるわよ」
立原冬馬は妻の冬美と長男学、長女香織と参加していた。
「あ、はい、はい」
藤岡がテーブルに3家族のリーダを机に招いた。
「明日の早朝には島に着きます」
そう言いながら簡単な島の地図を渡した。
「初めに言っておきますが、この本格アドベンチャー宝探しは子どもの遊びではありません」
立原は少し緊張したが、同席している氷川と木崎は顔色1つ変えていなかった。
「2週間14日を破跡島(はあとじま)で過ごしてもらいます。アドベンチャーなのでキャンプ道具や14日間で使うものは各自の持参になります。あ、でも、レジャーなので1日1回お昼の3時にセスナから支援物資が届きます」
「支援物資?」
「食料です。食料と言っても軽食、、、、コンビニのおにぎりと水だけです」
「あの、、、、その他の食事は?」
「、、、、、」
氷川が機嫌の悪そうな顔で答えた。
「アドベンチャーなんだから、、、、、それをあんたも楽しむために来たんだろ」
「あ、まぁ、、、」
立原が恐縮しながら返事をした。
「氷川様、黒川社長から聞いております」
「ああ」
割腹の良い体型の氷川はどうやら黒川物産と何かつながりのある家族のようだ。
「黒川さんにはお世話になっているよ。私はこのアドベンチャーを通して子どもたちに生きる厳しさを教えたいと思っているから区別は無しで頼むよ、藤岡くん」
「もちろんです」
「あの、、、、」
氷川の横で凛とした容姿の木崎が手をまっすぐ上げた。
「木崎様、何か?」
「この地図の真ん中の宝マークなんですが、宝はなんなんでしょうか?」
「いやぁぁ、、、それは言わない方が、、、」
藤岡が答えをわざと遠ざけて答えた。
「手にしたらきっと喜ばれると思います」
「そうですか。分かりました。しかし宝を探し当てるのは競争ですか?」
「いえ。競争ではありません。と言うか、宝を探しても良いですし、探さなくても良いんです。まぁ、せっかく島に行くんだから宝くらいあった方が盛り上がると思いまして」
「なるほど」
「話を戻しますが、この黒川物産の企画する本格アドベンチャー宝探しは子どもの遊びでは無いので、もし引き返すなら島には降りないでください。船は7日後と14日後しか来ません。支援物資のセスナは着陸出来ません。特にお子様が体調など悪くなっても、ご家族でなんとかするしかありません。本格アドベンチャーと言う名前は伊達や酔狂では無いとご理解ください」
「はぁぁ、、、、」
「、、、、、、、」
「、、、、、、、」
3家族のリーダーはイマイチピンと来ない感じだ。それはそうだろう。いくら本格アドベンチャーと銘打ってもこれはレジャーだ。身の危険もある程度は覚悟しているが、藤岡の言うような現実性のある危険なんて想像出来ない。
「では、念のため、この書類にサインをお願いします。あ、でも、明日の朝、やっぱり辞めると言うのもアリなんで、明日の朝がジャッジメントモーニングと言うことになります」
「あの、これは?」
「あ、もし万が一、事故などで怪我や最悪の事態になっても黒川物産には責任を追わないと言う誓約書です。何しろ相手は自然なので」
3家族のリーダーは書面にサインをした。明日の朝まで考える時間もまだあるし、子どもたちにも聞かなければいけないのはどのリーダーも同じだろう。子どもたちが怖がったらこのまま船に乗って帰れば良い。
「では、時間も良いころなので、食堂で3家族の自己紹介をしながら夕食にしましょう」
「食堂?」
「80フィートのクルーザーなので甲板が食堂ですが、料理は少し豪華にしています。夕暮れを見ながらの食事です」
「最後の晩餐、、、、ってことだね」
氷川が嘲笑うように言った。
「まぁ、そんなところです」
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3家族を乗せた本格アドベンチャーの物語 / スパンキーサマー第2話へ続く