[ノベル]スパンキーサマー/第8話/氷川家の3日目

=================氷川家はキャンプ場に残った。夏樹はバックパックの中から釣り針と釣り糸を出し昼間に獲った貝を餌に2匹の魚を釣り上げた。大物とは言えないが家族4人がこの窮地を生き残るには十分なタンパク源だ。手頃な石をサークル状に並べ小枝を並べガスバーナーで火を点けた。魚の内蔵は明日の釣り用の餌にするので葉っぱに包み丁寧に保管した。魚と貝は持って来た箸に刺し焦げ付かないように焼いた。

「おお!夏樹!今日は魚か?」

「、、、、、今日はって言うか、救助が来るまでずーっと魚よ」

「まぁ、夏樹ちゃん、魚は煮付け方が良かったわね」

「この助教で、煮付けなんてどうやってやるのよ!今の状態、分かってる?」

「煮付けも出来ないなんて、、、、お父さん、私こんなところ早く帰りたいわ」

「まぁ心配するな、明日には救助が来る。私はグループの代表だぞ!」

夏樹にとっては少々イラつく場面だったかも知れないが4人は食事をとった。魚も貝も焼いた香ばしさ以外に味の無いただの塊だった。

「私、喉が渇いたわ」

「お母さん、今は我慢だよ」

「わ、何このおかず、、、味しねーし、、、」

夏樹がイラついたが今喧嘩しても意味が無いことが分かっていた。目の前の3人は家族ではあるがアウトドアやサバイバルの中では一番邪魔な人間だ。自分の置かれている状況を理解しようとしない人間はアウトドアには向かない。このパターンの人間は自然と対峙するのは見た目だけでその内容は守られている安全な危険を体験している家族キャンプと同じで遊園地か何かと勘違いしている。もしも万が一の事故があったらすぐに他人への責任を追求する。アウトドアの責任はいつでも自分にあることさえも忘れる安全な危険を体験しているのだ。

夏樹の家族も黒川物産のレジャー企画に参加していると今でも思っているのだろう。

「夏樹ちゃん、水、どこかでもらって来てくれない。お金なら私の財布から持って行っていいから」

「今、水なんて無いの。お金の今は使えないの」

「あら、じゃあ、水は、、、」

「もう!我慢して!」

夏樹はイラつきを我慢しながら最新のドーム型のテントに入った。中は広くカーテンで仕切れるほどの広さだ。天井を見ながら夏樹は想像を巡らせた。

「救助かぁ、、、、いったいあの地震は、、、、、本土はそんなに被害があったのか、、、、、それより、今は水か、、、、」

次の朝、香ばしい匂いで目を覚ました夏樹は嫌な予感がして慌てて飛び起きた。テントから出るとその嫌な予感は当たっていた。昨日獲った魚と貝の余りを忠男ガスバーナーで焼いていた。

「あ、夏樹、おはよう!」

「おはようじゃないわよ!何してるの!」

「何って、母さんが魚を刺身にしてくれて炙った方が美味いっていうから。貝は生で食べちゃダメだろ」

「、、、、、、ちょっと、あんたねー、、、お兄ちゃん!、、、、」

「ん?何か?」

忠男が持っているガスバーナーを取り上げ振ってみた。まだ少しガスがあるのが分かってホッとしたが同時に肩が落ちた。

「どうすんのよ!」

「え?」

「だから、どうすんのよ!」

「夏樹、何を怒ってるんだ?」

「そうよ夏樹ちゃん、忠男さんだって美味しい朝食を、、、、」

父も母も呑気に夏樹の怒りを落ち着かせようとした。

「馬鹿なの?!どうすんのよ!救助が来るかどうかも分かん無いのに、、、、、、美味しい朝食?、、、、馬鹿なの?」

「夏樹、馬鹿は言い過ぎだろ。心配すんなって、救助、来るに決まってるだろ」

「そうよ夏樹ちゃん、お父さんが帰って来ないって分かったらすぐに会社の人が手配するわ」

「そうだよ、夏樹。私はグループの代表なんだから」

笑いながら夏樹の怒りを制したが夏樹は腹の虫が治らない。

「、、、、、、!」

「さあ、朝ごはんだ」

忠男が香ばしく炙った刺身と貝を並べた。昨日獲った食料が今日の朝食で全部消えていった。

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3家族を乗せた本格アドベンチャー / 第9話へ続く

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