[ノベル]スパンキーサマー / 第3話 / 地鳴り

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目覚ましの音とスマホのアラームの音が順番に鳴っているのが分かった。

少し間を置いて船内アナウンスが流れた。

「えー、、、藤岡です。後30分で葉後島に到着します。皆さん、顔を洗って気持ちをワクワクさせて甲板に集合してください」

時計を見ると6:00だった。外は既に明るい。

「さあ、ほら、ママ、香織も、起きて!行くよ」

甲板に集まると藤岡が小さな袋をテーブルに並べて待っていた。昨日の昼間や夕食の時は暑さを感じたが朝の日差しの柔らかさも相まってか寒さを感じる。

「えー、、、、リーダーの皆さんには言いましたが、降船すると最低7日は迎えが来ません。もし辞めるならかまいません。この船で一緒に戻りましょう」

参加者はお互いに顔を見合わせた。雄太は氷川社長と少しでも話したい、香織は夏樹ともっと遊びたいようだ、香織が行く気満々なので冬美は行くしかない、家族を行けせて自分だけ帰るのが無理な立原、圭介は忠男を先輩のようにしたっていた、氷川と忠男は性格からか怖いもの知らずの様相で、母の友恵は氷川が付いていることで安心している、木崎は持ち前の自衛隊魂で今すぐにでも上陸したいようだ、学は立原家での言い出しっぺだったが島も目前にしてワクワクしている、そして夏樹は父親と兄の面倒を見なければいけない。幸か不幸か理屈では引き返す理由が無い一行だ。

「では、上陸しましょう!袋には今日の食事が入ってます。各自持って行ってください」

島にベタ付けするかと思っていたが島には堤防が伸び小さな小さな港があった。

「黒川さんは無人島に港を!」

「はい。使うことの無い葉後島でしたが、このアドベンチャーを企画した時に社長が」

順番に上陸を果たした3家族を確認して藤岡たちの船が遠くに消えていった。

「、、、、、、」

「、、、、、、始まっちゃたね」

「ああ」

黒川物産の企画とは言え慣れない環境にやや緊張をするのは当たり前だろう。

「さて!何からやりましょうか!」

木崎が元気よく問いかけた。

「じゃあ、地図にそってキャンプ場に行って、、、、家、家を建てますか!」

立原が答えると一行は地図を見ながらキャンプ場へ向かった。小さな小さな港は形だけの港ですぐに藪が遮った。

「任せてください!」

木崎が持ち前の知識で藪を上手に倒しながら進んだ。

「こうやって足で藪を倒しながら進んで後の人も周りの藪を足の裏で倒すと、さらに後の人もやれば、道が最後には出来るんです」

「、、、、おお!」

木崎の指示に従い大人たちは藪を左右前に倒しながら進んだ。後から来る子どもたちも真似しているが既になんとなく道が出来ているのが分かった。藪を倒しながら進むこと15分。キャンプ場らしきひらけた場所が見えた。

「あそこだけ藪ないね」

「あそこがキャンプ場でしょう」

キャンプ場に着いた一行はそれぞれの敷地を決めてテントを広げた。夏樹を中心に香織、圭介、忠男が、地図にある小川に水を確認しに行くついでに食料があるかも確認することにした。

移動しなければいけない場面の時、大人は使い物にならない。動くことを嫌うのが大人だ。

「夏樹ちゃん、ごめんね、香織のこと、よろしくねー」

「はーい!」

忠男と圭介は無人島に来たとは思えない話で盛り上がっている。

「だからさ、通信の方法を開発するんだよ」

「通信ってスマホとか、無線とか」

「そう!でも機械を売るんじゃないんだ、、、、技術と言うか理論を売るんだ」

「技術なんて売れるんですか?」

「馬鹿だな、商品を売る時代じゃなくて、アイデアを売る時代なんだよ。商品なんてコストがかかるからダメだって」

「スゴイっすね、マジ、本気になってきました。俺、頑張るんで雇ってください!」

「当たり前だろ、圭介。帰ったら俺のダチ、紹介すっから」

「はい!ありがとうございます」

「もー、お兄ちゃん!さっさと歩いて!」

たまりかねて夏樹が怒った。

「あれ、妹。夏樹って言うんだけど、まったくギャルなのかキャンパーなのかハッキリしねーんだよ」

「はぁ、、、、でもカッコいいっす」

小川まで着くと夏樹がペットボトルに水を入れた。

「夏樹お姉ちゃん、飲むの?」

「まだ飲んじゃダメよ」

「そうなの?」

「これを後で濾過、、、、後でキレイにして飲めるかどうかチェックしないと」

「へぇー」

「香織ちゃん、喉乾いた?」

「うん、少し」

「じゃあ、、、、」

夏樹は辺りを見回して大きな葉っぱを香織に持たせ、大きな葉っぱの上に夜露の付いた葉っぱをザザッと何本も振った。香織の持つ大きな葉っぱに水玉になった水がドンドン溜まっていく。

「さあ、飲んで」

「え?これ飲めるの?」

「うん」

香織が口を付ける前に夏樹が大きな葉っぱの水を一口飲んだ。

「んんん、、、、美味しくはないけど、飲めるよ」

「、、、、、、」

香織が恐る恐る口を付ける。

「、、、、、あ!おいしい!」

「でしょー。雨が降った後とか朝早くの夜露は飲んでも大丈夫だから明日から水集めしようか」

「うん!水集め!」

帰り道に夏樹は食べれる野草と食べれる木の実をいくつか見つけた。今採るのをやめたのは食料が無い時のために大切にしておかなければいけないからだ。

キャンプ場に着くとテントはバッチリ張られていた。

「さあ、ここが木崎家だ!立原家や氷川家より、良い出来だろ!」

木崎のテントは寝室と前室がちゃんと分かれていてタープで木陰もある。まだ用意はされていないがもう1つのタープはキッチン用だろう。

「いやいや、木崎さん、私の家はプライバシーを大切にしているので2DKですよ」

立原は2つのテントとコンロが目の前に用意されている。

「、、、、、ええええ、、、あの、、、、御二方!」

氷川が遠慮しながら大きく声を出した。2人が見るとそこには最新のドーム型テントがそびえ立っていた。

「私の家は、、、、、」

「広い、、、、」

「でかい、、、」

「はい。やはり家はデカくないと」

子どもたちは大人たちの見栄自慢なんか気にもせず海へ向かっていた。

「貝、貝拾おう!」

夏樹の号令で子どもたちは貝を拾い始めた。

「貝があれば釣りも出来る」

「え?でも釣竿ないよ」

「大丈夫!明日のお楽しみ!」

1日目の夜はあっという間にやって来た。夕食は拾った貝と持って来た少しのパンと藤岡にもらった食料を少しだけ用意して日暮れと共に夜を迎えた。


深夜、嫌な感じを感じた立原と夏樹は目を覚ました。何事もないようなフワっとした感じがしたと思ったら地鳴りが小さく聞こえてきた。

「地震?」

「、、、、?」

そう思ったのも刹那。地震が島を襲った!

「学!起きろ、ママと香織を起こして!」

「パパ、お兄ちゃん、地震!」

木崎のテントで誰かが起きた様子が無いのに気が付いた立原は急いでファスナーを開けた。

「木崎さん!木崎さん!地震!起きて!」

「あ、んん、、、、、え?」

「雄太くんも圭介くんも、早く、出て!」

木崎家3人は何が起きているかも分からないまま急いで外へ出た。地面に座っていても分かるほどの揺れがまだ続いている。恐怖で皆動けない。我を取り戻して夏樹が言った。

「誰かライト、スマホのライト、誰か」

「あ、持ってる。懐中電灯」

「とにかく海から離れましょう。少しでも高いところに」

「高いところって」

「とにかく、、、、、、小川、小川まで行きましょう」

1本の懐中電灯を頼りにうろ覚えの道を小川まで歩いた。

「確かこの辺りに、、、、あった!」

夏樹が指差したのは少し大きな岩だった。

「あの岩の上、、、、分かんないけど、あの岩のところまで」

大きな岩に到着すると星灯りでも海面が揺れているのが分かった。

「まだ揺れてる、、、、」

「ええ」

大きな揺れは治ったが小さな揺れがまだ続いている。時折、小さな揺れから大きな揺れに変わる瞬間がとても怖い。

「夏樹ちゃん、これって津波対策?」

「夏樹、そうなのか?」

「うん。でも海面が引いていかないから大丈夫みたい」

「、、、、、、ここで夜を明かすの?」

答えは分かっていたが冬美が問いかけた。

「そうだな、、、、毛布くらい取りに行くか、、、、、」

立原と木崎が3家族のテントから暖が取れそうなものを両手いっぱいに持って来た。

時計を見ると3:35だった。

「夜明けまで1時間、、、2時間か、、、」

立原は香織を抱き寄せて朝を待った。

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3家族を乗せた本格アドベンチャー/ スパンキーサマー/第4話へ続く

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