[ノベル]スパンキーサマー/第7話/木崎家の3日目
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「よーし!着いた!ここを木崎家の領土にしよう!」
木崎一行が南側にある入江に着いた。途中で道が分からなくなって竹の生い茂るひらけた場所で休憩したせいで少し遅くなったが、休憩した場所で小川の水源らしき小さな沼を見つけたのはラッキーだった。あとで立原と相談して水を確保する方法を考えなければいけない。この状況で仕事が増えるのは木崎にとってとても嬉しいようだ。
木崎は雄太と圭介がお腹を空かせているのを見て心配になったがどうしようも出来ない。
「食料か、、、、」
入江は砂浜と磯が入り組んでいる。磯では蟹が時折歩いていた。
「おーい、雄太!蟹を捕まえよう。今日は蟹だ!」
雄太と圭介は下を見て蟹を追いかけた。木崎は浅い水溜りに海藻も生えているのを見つけた。
「海藻か、、、、ワカメだな、、、ん!」
木崎は妙なことを思い付いた。蟹を採るのを子どもたちに任せてワカメを引っこ抜いた。なるべく透明度の高い水溜りでワカメを洗い山に近い場所にある岩の上に広げた。
「何すんの?」
圭介が近付いて不思議そうに問いかけた。
「圭介、ワカメ、何枚か引っこ抜いて持って来てくれ」
「ワカメ?何枚いるの?」
「あああ、、、、そうだな、こう、広げて大きい感じのを3枚くらい」
「うん」
岩に干されたワカメに日光を思い切り浴びさせている。山沿いにある大きな葉っぱを丸めてコップを作った木崎は1時間に一度水溜りからワカメに海水をかけた。
「、、、、、これ、どうなるの?」
「いや、、、、分からないけど、多分、、、、、今はそれよりも蟹は?」
「獲れたよ」
袋の中には20匹くらいの蟹がいた。
「よし。じゃあ、次は火だ」
「火?」
「ああ、、、ライターないから、、、、」
雄太がカバンからいくつかのものを出した。スマホ、メガネ、ペットボトル、小型ナイフを岩の上に並べた。
「ドラマとかだと、メガネで何かを燃やして火を起こすけど、、、あれって本当に出来るの?」
圭介が雄太に現実的な質問をぶつけた。雄太は持ち前の学力をフル回転させて答えた。
「理論的には出来るけど、、、、」
「いや、やるべきだろう」
木崎が腰を下ろしながら2人の会話をまとめた。
「今、必要なのは出来るかどうかじゃない。思い付くことは全部やってみることが大切だ。理論的に出来るのであれば何かのきっかけさえあれば火を手に入れられる」
「、、、、、うん」
「そうだね」
雄太は圭介にやり方を説明した。燃えやすいタオルをナイフで切り濡れていない小枝を集め太陽の熱をしっかり受け入れた岩を探した。手で触っても熱いと思うような岩だ。その上に切ったタオルを置いた。メガネを上手に照射出来るように角度を付ける。
「んんん、光が分散しちゃうな、、、」
「無理?」
「いや、要はなるべく一点に太陽の光が集まれば良いんだから、、、、」
「あ!」
圭介が妙なことを思い付いた。
「ねえ、スマホって電気じゃん。あの、何て言うの、電池とかってバチバチってなるでしょ」
「うん」
「あれって火にならないの?」
「あ!だったらお父さんの懐中電灯の方が良いかも」
そのアイデアを木崎に話すと残念ながら2人のアイデアは拒否された。
「良いアイデアだけどダメだ。今の時点で懐中電灯は目印の役目も果たし、万が一の時に電池があるのと無いのでは結果が違う。良いアイデアだったがそれは今はダメだ」
2人はがっかりしなかった。言われてみればもっともだ。スマホで試すことにした。
「スマホ、、、、僕のでやるか、、、、」
雄太のスマホには受験用のデータが色々入っていて塾の講師からのLINEもやっている。それが無くなると言うのはスマホ自体の経済面でも痛いしデータが無くなると練習問題なども無くなる。
「、、、、、、、」
それを見た圭介が意を決して言った。
「いいよ、兄ちゃんのじゃなくて俺のでやろう」
「え?いいの?」
「良いよ、どうせTwitterとゲームだけだし。もう前の前のスマホだし」
「、、、、、、じゃあ、圭介のでやろう」
圭介はスマホの使い方はプロ並みだが機械そのものは素人以下だ。SIMカードの抜き方だけ知っていたがその他が何も分からない。
「俺、あっちでメガネやるから、兄ちゃんはスマホバチバチやって」
「分かった」
その日、火を手に入れることは出来なかった。スマホはカバー取っただけで火を発すまでには至らなかった。メガネも結果は出せなかった。その代わりにワカメは少しだけ結果を出した。
「塩!」
「ああ、ワカメの上に乾いては海水をかけ、それを繰り返すと段々塩が浮いてくるんだ。家にある塩とは全然違うけど塩分補給とちょっとした味付けに、、、、まぁ、1日だとほんの少しだけど何日か続ければ、、、、」
「そうだね、塩はあった方が良いよね」
蟹と海藻を洗って食べその日は眠りに着いた。
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3家族を乗せた本格アドベンシャー / 第8話へ続く
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