[ノベル]スパンキーサマー/第10話/再会よりも水
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夏だと言うのに朝はここに来てからいつも少し寒い。歩みを進めもう直ぐ氷川の暮らすキャンプ場だ。
「ん?、、、あれなんだ?」
小川からキャンプ場は獣道のようになっていて何回か往復したので慣れたものだ。キャンプ場入り口付近に倒木でバツ印のような垣根が作られていた。
垣根をくぐると氷川が草原でうたた寝をしていた。
「氷川さん、氷川さん、おはようございます」
「んん、、、ぁ、、ああ、立原さん、、、」
「おはようございます」
「、、、、、おはよう」
「お元気でしたか?」
「ああ、おかげさまで」
「あの、これ、お土産」
立原はペットボトル2本を差し出した。
「、、、、これは?」
「水です。飲めます」
「え?」
「はい。小川の水を濾過して、、、はい、、、」
「おお!」
氷川は立ち上がり急いでテントに向かった。
「友恵!友恵!水!」
友恵が寝起きでテントから出てきた。普通ならジャージ姿を想像したが見たこともないネグリジェのようなスエットのような高級感あふれる容姿だった。しかし5日も経っているせいか少し泥汚れも目立ち顔も少し疲れているようだ。
「水?」
「そうだ。立原さんが、、、、持ってきてくれた」
「はい。小川の水を濾過して、あとうちの周りは夜露も葉っぱに付くのでその水を集めて、なんとかやれてます」
そんな話もそそろに友恵はペットボトルに口を付けた。
「少し苦いけど、、、、美味しいわ」
「あ!香織ちゃーん!」
遠くから夏樹の声が聞こえた。日課になっている貝拾いから帰って来たようだ。
「おかえり!獲れた?」
「ダメー、、、、貝が無いと魚も取れないし、、、困ったわ、、、、お兄ちゃんも少しは手伝ってよ!」
「俺はアウトドアなんかよりビジネスを考えなきゃいけないから無理!」
「ビジネスって、、、、、今、なんの役に立つのよ、、、」
どうやら氷川家の大黒柱は夏樹のようだ。辺りを見回すと目に入るのは暖炉だ。そこには火がある。
「あ、、あの、夏樹さん、あの火、、、」
「あ、最後の灯火です。お兄ちゃんがガスバーナー全部使っちゃって」
「いや、その、、、、火を分けてもらえませんか?」
「え?良いですよ」
夏樹が軽く返事をした時に母親が持っているペットボトルに気が付いた。
「ママ、それ何?」
「あ、これ。立原さんが水を持って来てくれたの」
「水?」
立原が小川の水を濾過した話をすると夏樹は驚いた。
「すごーい!」
「あとね、あと、香織が、、、私が、朝ね、葉っぱから水、バサ!バサ!って」
香織が夏樹に聞いて欲しくて空回りしながら夏樹にしがみついた。
「そう!えらいね!」
「うん!夏樹お姉ちゃんに教えてもらったやつ!」
「実は濾過するって言っても1日でペットボトル3本か4本くらいしか取れなくて、何度も濾過しないと飲めないんです。香織の言う葉っぱで水を集める方が効率良いんですよ。ただ夜露が毎日付くわけじゃないですし、葉っぱもやたらめったら切るわけにもいかないですし」
「でも濾過装置があるのはすごいわ。ぜひ今度見せて下さい。ここは水が無いんで」
「はい。ぜひぜひ。いつでも水、持ってきます」
「そうそう。木崎さんのところ、塩作ってるって」
「あ、聞いたわ」
「うちはもらいましたけど、氷川さんのところは?」
「うちももらいました」
立原が時計を見ると家族に声をかけた。時計を見る癖は時間なんて気にしても仕方がないこんな場面でも変わらない。
「そろそろ帰ろうか。夕食の山菜を取りに行かないと。今日は火があるから豪華だぞ!」
「やったー!」
立原の家族を夏樹と忠男がバツ印の唐木の垣根まで見送りに行った。
「あ、そういえば、これって」
「ああああ、、、これ、パパが」
「何か意味が?」
「獣除けとか言ってたけど、本当は自分の土地みたいな境界線を作りたいみたい。キャンプ場はパパの土地だって」
「はぁ、、、そうですか」
「気にしないで」
「いや、でも玄関っぽくて良いじゃないですか、見送りもなんかここでさようならみたいなことも出来ますし」
「まぁ、そうですけどね。この前は木崎さんのとこの雄太くんと圭介くんが海岸から来て、海岸も立ち入り禁止にしろ!って、、、、何の権利でそんなことを言うんだか、、、、」
「まぁ、お父さんは氷川グループの会長さんなんで、その、、、」
「うん。でも、それは救助が来たらまた話しましょう」
「そうですね。じゃあ、香織、夏樹お姉ちゃんにバイバイ言って」
「うん。バイバイー!」
「またねー」
その姿を兄の忠男はただ見ていた。
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3家族を乗せた本格アドベンチャー / 第11話へ続く
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