[ノベル]スパンキーサマー / 第12話 /王様降臨

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雨は次の日の朝は止んでいた。

立原が外に出ると小鳥のさえずりが聞こえていた。

「鳥、、、、?」

そう言えば島に着いて初めて鳥のさえずりを聞いたような気がした。緊張が続いて聞こえなかったのか、それとも鳥は初めからいたのか、分からないが鳥は貴重な食糧だ。

「鳥、、、、、弓矢?罠?どっちだ?」

立原は木のつるを引っ張って小枝に結び弓矢を作った。矢はとりあえずその辺に落ちている小枝を弾いて見た。飛んでいくと言うにはほど遠いが作るしかないと思った。

「んんん、、、、矢だな、矢の方を、、、」

「お父さん!」

テントの横から学の声が聞こえた。

「ん?」

「火、、、、火、、、火が、、」

雨に打たれて火が消えていた。

「ああああ、、、まぁ、また氷川さんに相談してみよう」

南側に行く道から足音が聞こえたかと思うと木崎と雄太が小さな猪を抱えて登ってきた。

「え!木崎さん!、、、それ?」

「はい!入江に来てた猪の子どもです」

「どうやって?」

「石持って追いかけて仕留めました」

「おおおおおおお!」

「それで、猪のお裾分けに来ました」

「それはありがたい!」

木崎は学の姿を見ると香織がいないのも確認した。

「あの、、、切るのちょっとグロいので、、、学くん、、、、」

「あ、、、、」

「僕は良いですよ、今度猪が獲れたらやらなきゃいけないし」

「、、、、、そうか、、、」

香織が気が付くと厄介なので家とは反対側の小川を越えた場所で猪を下ろした。

「氷川さんのとこにも持って行くので、足、、、、前足か後ろ足をお裾分けするんですが、それで良いですか?」

「はい。じゃあ、、、後ろ足?前足の方が上手いですか?」

「一緒だと思いますよ。調味料は塩しかないですし、火も焚き火ですから、、、、あ、うちの火、雨で消えちゃって」

「それで火と猪を交換?」

「まぁ、それもありますけど、こう言う時はお互い協力しなきゃ」

「そうですね」

木崎のナイフ捌きはなかなかのもので出血も少なく後ろ足を切り落ちした。腿とお尻の肉も付いていたので少しづつ食べれば4日は持ち堪えそうだ。

「これ切り分けて、半分は腐る前にすぐに食べた方が良いです。もう半分は火があれば細かく切って焼いておくと長持ちします」

「あ、、、ありがとうございます。でも、うちも火が、、、」

「じゃあ、一緒に氷川さんのとこまで行きますか?」

「良いですね、うちも水をお裾分けします」

「それにしても氷川さんって、キャンプ場を自分の土地みたいにして、、、、笑っちゃいますね。まるで氷川町と言ったところですね」

「氷川町なら良いですけど、氷川王国になったりして、、、」

2人の父親は笑いながら猪を切り分けた。

木崎と雄太、立原が山を降りると氷川王国の入り口が見えてきた。遠くからでも煙が見えたので氷川王国の火は無事だったようだ。

氷川と忠男が草原に座っていた。

「あ、氷川さん、おはようございます」

「これはこれは、、、」

「猪のお裾分けに着ました」

「おおおおお!」

「でしょー!」

「今夜は豪華料理だ!」

木崎は手際よく切り分けてた。同じ説明を氷川と夏樹にした。

「で、火を分けてほしいんですけど、、、」

夏樹は立ち上がりいつも通りの返事をした。

「良いですよ、、、今、乾いた枝を探してき、、、、」

「ちょっと待って下さい!」

後から猪を見に来た忠男が口を挟んだ。その顔は何やら企んでいる顔付きだ。

「猪はお裾分けでありがたく頂きます。しかし、火は渡せません」

「え?」

「ちょ、、、何言ってるの?」

夏樹は驚いて兄の横に立った。

「取引します」

「取引?」

「はい」

「立原村の水を毎日ペットボトル2本を持って来てください」

「2本って、、、」

「そして、木崎村の塩。2日に一度、ペットボトル半分を持ってくる、、、、、それが条件です」

「ペットボトル半分、、、、あのね、忠男くん、塩は1日、、、そうだね、、、、1日でペットボトルの底に少しくらいしか出来ないんだよ」

「ワカメを倍、、、、4倍にすれば出来ますよね。水も家族みんなで夜露を集めればペットボトル2本くらい」

「いや、、、ここでそんなことしたら食糧を取る時間が、、、、」

「猪があるから4~5日は大丈夫ってことですね」

「そう言うと意味じゃなくて、、、、」

「お兄ちゃん!、、、、お父さんもなんか言ってよ!」

夏樹の言葉に立ち上がった氷川は2人を見て言った。

「、、、、、まぁ、そう言うことだ。猪はどうもありがとう。息子の出した条件はそちらでご判断してください」

頭を下げながら場を後にした氷川はテントに入った。

「忠男くん!君ね!今のこの状況で、、、、!」

「そうだよ。今は協力し合って、、、、」

「僕は協力的に条件を出しているつもりです」

「、、、、、、、」

「、、、、、、、」

困り果てた木崎が暖炉に目を向ける1本だけ薄緑の色をしたペットボトルが置かれていた。特に違和感は感じなかったが自分が愛飲しているスペインのミネラルウオーターのペットボトルによく似ていた。

「、、、、、、、」

立原は困ったが家族のことを思うとその条件飲むしかないと思った。しかし水を集める労働を家族全員で毎日やるわけにもいかない。

「忠男くん、1日2本じゃなくて、1日1本じゃダメかな?」

「、、、、、ダメですね」

ちょうどお裾分けに持って来たペットボトル2本を思い出し交渉した。

「じゃあ、その条件は、、、やはり、、、、家族とも相談したいから、、、今はこの2本で、、、とりあえず今日は火を貰えないかな?」

「、、、、、良いでしょう」

「今日は火を渡します。でも、返事次第では火を消しに行きますから。木崎さんはどうしますか?」

木崎は思った。立原の家の火を分けてもらえれば今この条件を飲まなくても良い。そして、水も塩も氷川は必ず欲しいはずだ。3家族共にギリギリの交渉と言ったところだろう。どれも必要なものだが今扉に手をかけているのは火をもっている氷川王国だ。

「、、、、、忠男くん、うちも少し時間をくれないか?明日中には返事をするよ。ただ今はうちも火が欲しい。猪も火が無いと、、、」

「、、、、、、そうですね。では今日は火を持って帰って下さい」

「お兄ちゃん!」

「お前はお前は黙ってろ!」

「、、、、、」

木崎が夏樹を心配そうに見たが、今は火の方が大切だ。

「じゃあ、明日、、、明日の夕方までには返事をするから」

「良い返事を待ってます」

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3家族を乗せた本格アドベンチャー / 第13話へ続く

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