[ノベル]スパンキーサマー/第20話/決戦の日
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決戦早朝。
立原木崎共和国の面々は水源のある場所で落ち合った。
「これより作戦を言い渡す!」
木崎の目が爛々と輝いている。
「これより指揮官は私木崎仙太郎が務めさせて頂きます。まず、作戦の目的は氷川王国首領(氷川)及び閣僚(忠男)の捕獲。生死は問わない。しかし元首夫人と娘は無事なまま投降させる。我々木崎第一連隊は海岸線より磯を占拠。立原第二連隊は山間部よりキャンプ場入り口と給水場付近に待機。作戦決行の合図は私木崎の松明投下を持って作戦決行。松明は氷川王国首相官邸を焼き払うために投下します。不測の事態が予想されますがその際も作戦開始は変わらないので松明を注視するように。敵は官邸以外のところに避難している可能性もあるので見つけ次第確保」
木崎司令官に説明は続いた。輝いた目の色はおそらくシリアに行った時もそうだったのだろう。
「では、所定の位置を確認して時間を待ちます」
作戦会議に香織は参加しなかったがこの時立原と学が出かけるタイミングで氷川王国へ向かっていた。
山を降るのは慣れたものだが昨日と今日では状況が違うことくらい香織にも分かる。
バツ印の垣根のところから探しているのは夏樹に姿だ。
「、、、、、いない、、、どうしよう、、、、」
海の方まで行きたいが藪が高すぎて香織には無理だった。
「あれ、、、、香織ちゃん?」
聞き覚えのある太い声に香織は驚いた。立っていたには忠男だ。
「こっちにおいで」
「、、、、、、、、」
「大丈夫、、、、さぁ」
「、、、、、、」
恐る恐る垣根をくぐると官邸に招かれた。
「良いかい、夜まで出ちゃダメだよ。あとで移動するかも知れないから、静かに待っててね」
「でも、帰らないとパパとママが、、、、」
「大丈夫。もうすぐパパが来るから」
作戦会議を終えた一行はそれぞれの村にあるベースに帰ってきた。時が来るまで待っているが立原には心配があった。学のアイデアの思惑より少しハードな作戦になっていた。
「学、、、、、これ、お前の言ったのと少し違うよな」
「、、、、、、そうだね」
「どこで言い出すんだよ?」
「、、、、、、さぁ?」
「さぁ、、、、って!」
「本気で殺すわけじゃないんだから、適当な良い時に言い出せば!」
「、、、、、、お前な、、、木崎さんあの嬉しそうな顔見ただろ」
「あああああ、やばい顔だったね」
「あの人を一番初めに止めないと、、、、」
「だね」
適当なところで氷川共和国元首と閣僚が「仲良くやりましょう」と言ってくれるための脅しの演技のはずが爛々と輝く木崎の目の色は完全制圧を目指していた。
さすがに殺すことはないと思っていたがあの目を見るとかなりの危険な匂いを感じる。もしもの時は氷川共和国の反撃よりも先に木崎の持つ武器を奪わなければいけないかも知れない。
ベースキャンプに戻った立原と学は香織がいないことに気が付いた。
「ママ、香織は?」
「え?、、、、その辺にいない?」
「いないよ」
「おかしいわね、、、、」
「あ、そう言えばさっき下に降りていったような」
「ええ?」
「なんで止めなかったの?」
「止めるもなにも、その辺で遊んでいると思ってたから」
「、、、、、、まぁ、、そりゃそうだけど」
「もう、本気で喧嘩なんかしないでよ、いい年なんだから。氷川さんだって喧嘩する状況じゃないのくらい分かってるわよ。ここ島よ」
冬美に言われなくてもそのつもりだが木崎の熱量が熱すぎてこちらの作戦通りに行くかどうかが心配だった。香織が心配だが作戦決行時間も迫ってきている。嫌な予感がする。しかし木崎に作戦の延期や中止を言う時間も無い。
「どうする?お父さん」
「とりあえず、作戦に参加しよう」
「香織は?」
「たぶん氷川王国にいるかも」
「え?」
「人質?」
「いやぁ、、、それは、、、夏樹ちゃんが保護してくれている思うんだけど、、、」
「、、、、、それを人質って言うんだよ!」
氷川王国首領及び閣僚の確保に加え立原村元首の娘の救出まで任務に加わってしまった。目的地は同じだが、香織の容体が気になって気になって仕方がない。
薄暗闇の中、木崎司令官の指示あった場所に立原と学がそれぞれ待機した。うっすらでははあるが海沿いにも人影が動いた。
「んんんん、、、、あれは、木崎さんたちか?」
学の待機場所に木崎が近づき人影の方を指差した。
「木崎さんたち?」
「たぶん」
「でも、雄太と圭介のポジションはもっとあっちの方だった気がする」
「じゃあ、、、、、」
「分からない」
「、、、、、、、、」
「とにかく、木崎さんがテントに火を放ったら開始だ」
「、、、、、、うん」
火を放つ時間は木崎司令官任せだが夕闇になってからと言われていたのであと30分は待機が続くだろう。この緊張した場面で時間を待つのはとても長く感じる。
ジリジリと汗が落ちる。立原村の武器は太めの枝と拳くらいの石だけだ。氷川王国の精鋭たちの武器も大きめの石か太めの枝だろう。気がかりなのは氷川王国特別部隊所属の夏樹一等兵のバックパックに何か武器が入っているかどうかだ。ここでは夏樹がグリーンベレーよりも強い戦士に感じてしまう。
どれくらい待っただろうか、遠くに小さく松明のような光が見えた。
「来た」
「たぶんあれだ」
松明がこちらからも見えると言うことは息を潜めている氷川王国の精鋭からも見えているだろう。作戦を読まれていることは想定内だが問題は氷川王国首領の尚吾と閣僚の忠男がどこにいるかだ。そして香織無事なのか。
立原と学に緊張が走る。泥だらけの顔に汗が落ちて洋服も土の匂いしかしない。
氷川と仲良くしてもらうために考えた作戦が木崎の指示とやる気である意味では危険な戦争になり、そして香織を救出しなければいけないかも知れない救出作戦にもなった。
少々疲れた気持ちを何んとか奮い立たさなければ、どちらにしろこの島で楽しむことはできない。
「、、、、、やるしかないか、、、、」
その時!
小さな松明に火が中舞い上がった!
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