[ノベル]ライダーズオペレーション/ep1/救急搬送


======ep1/救急搬送=======


「がぁぁぁ、、、、うううぅ、、、」

バイクが大きく転倒した。


年末近く12月20日。仲間うちのイベントの年末ツーリングだ。10台近くが楽しみに集まった。


神楽本 優(かぐらもとゆう)はそのメンバーの1人。なんでも無いカーブで滑ってしまった。

「かぐらっち!!」

「ゆうちゃん!」

「、、、、、」

後ろから来た仲間が駆け寄り声を掛け土手をみるとYZF-R1が畑との境に乗り上げている。

「せーの!」

仲間の1人笹吉多貴(ささよしたき)が掛け声をかけバイクを土手から引きづり出した。

「ああああ、、、、」

「泥だらけで、、、」

「、、、、ごめーん」

神楽本が申し訳無さそうに謝った。見るからに右肩が変形しているのが分かる。右足も引きずっている。少し後から来た矢武(やたけ)や宮見(みやみ)がバイクを停めた。さらに後から来た若奈(わかな)もその事態に気が付きバイクを停めた。

「マジか、、、」

「どうなった?」

「痛い?」

「うん、、、、」

「救急車呼ぼうか?」

「そうだね、、、頼みます」

「あ、もしもし、事故です。はい、バイク事故で。えーっと大丈夫です。歩けるんですけど、肩と足がたぶん折れてますね、、、、えーっと住所、、、榛名街道の途中なんでけど、、、」

横で聞いたいた神楽本がすぐ近くにあった民家まで歩いた。引きづる足が痛いが救急車も必要だ。

「あ、すみません、、、」

「事故?」

物々しい雰囲気を感じて家の主人らしき男が子供を連れて通りまで出ていた。

「はい。バイクで、、、」

「大丈夫だったの?」

「いえ、救急車を呼びたいんですけど、ここの家の住所を言って良いですか?」

「もちろん、、、、書いてあげるよ、でも、大丈夫?痛そうだよ」

「、、大丈夫だと思います、、、ありがとうございます」

手渡された紙を笹吉に渡すと救急隊に告げた。

「えーっと、群馬県北群馬郡東榛名、、、、」

電話を切ると一緒に来てるツーリング仲間と共に神楽本を囲んだ。ぐったり横になった神楽本はボー然とした目の色だったが肩と足以外は正常なのが分かった。

「痛い?、、、、水飲む?」

「あ、水、ちょうだい」

「30分くらいで救急車が来るって」

「、、、、ありがとう、、、あ!保険、、、、ってかレッカー呼ぶ」

慌ててスマホを取り出しアイアイ保険コールセンターに電話して状況説明とレッカーを頼んだ。

「ええ、、、で、俺、救急車の乗っちゃうんで、現場には笹吉って男がいるかも知れないんです。一時的に誰もいなくなるかも知れないので、連絡も笹吉に」

「分かりました。では、レッカーの手配を致します」

電話を切ると足を引きづりながら笹吉たちの元に歩いた。

「たきさん、レッカーが1時間くらいだって、もし俺、病院に行ってたら頼んでいい?」

「いいよ、ってか救急車遅いな」

「肩も痛いけど、足が死ぬほど痛い、、、」

「歩けるの?」

「相当我慢すれば、、、」

「座ってれば、、、」

「だね」

座りながら自分がなぜ転けてしまったのかを考えたが、それ以上に今日のツーリングが年に一度のバイク仲間で集まったツーリングだったので、事故起こしてしまった自分を反省した。みんなで集まれる嬉しさと意識していたわけではないがスピードを競い合っていたのかも知れない。

「ああああ、、、先に行った伊東(いとう)とかテッシー、気が付いてないよね、、、」

「今、ラインしたから、気が付くでしょ」

「まぁ、どっちでも良いけど、、、」

「とりあえず、榛名湖のパーキングで落ち合うように書いといた。返事ないから走ってるんでしょ」

そんな会話をしている後ろで宮見と若奈が神楽本のバイクの泥を落としていた。遠くから救急車のサイレンが聞こえる。あの音がここに来る救急車なら気がだいぶ楽だ。

「あ、あれ、そうじゃない?」

笹吉が救急車に手を挙げるが、その救急車の後ろから伊東廉馬(イトウカドマ)のGPZが迫り来ていた。

「、、、、、はは、、、」

「ああああ、笑っちゃうね」

「、、、、、まぁ、良いんじゃない」

救急隊よりも先に伊東が現場に到着した。ヘルメットを脱ぐより先に神楽本に近づいた。

「大丈夫?」

「大丈夫、、、、ってか、ムービー回しといて」

「ああああ、、、分かった。こう言う場面、なかなか無いからね、バッチリ撮っておく」

「あと、かっちゃん、うち近所だから警察とか救急車とか、あと横浜に弟がいるから連絡係で良い?」

「良いよ、俺の名前と番号で連絡しとく」

「それより、、、ムービー、撮って後で笑おう」

「OK!」

伊東がスマホのムービーで現場の風景を撮り出した。宮見は心の中で「こう言う時に不謹慎」だと思ったが、神楽本と伊東との関係でそれがOKならOKなのだろうと納得した。

「大丈夫ですか?」

救急隊の1人が神楽本に駆け寄った。

「保険証か身分証明を持ってますか?」

「あ、免許、保険証は無いです」

救急隊員は免許を渡され身分確認をメモした。

「えーっと、、、神楽、、、かぐらもと、、、かぐらもとゆう、、、さんで良いですか?」

「はい、、、、」

「あ、じゃあ、神楽本さん、えーっと、昭和47年生まれ、、、えーっと年齢は」

「49です」

「え?49?」

「はい」

「49でバイクですか?元気ですねー、羨ましい!お顔もまだまだ若々しい!僕もねー、10代の時にキムタクに憧れてTWに乗ってて、まぁ、通勤ですけど。若いってのは良い!あっちの方も若かったりして?」

「あっちの方?」

「タフなんでしょ?」

「えーっと、なんのお話でしょうか?」

「だから、、、一晩で2回、3回なら49にしては、キングと言っても良いでしょう!」

「あの、、、事故、、、身体が、肩と足、、、、」

「あああああ、、、事故でしたね」

「あ、はい、、、」

「痛いところは?」

「肩と右足、、、、あと脇腹、、、」

「あああああ、、、鎖骨、これは砕け散ってますね、、、、足は、右足、親指ですか、人差し指ですか?」

「あああ!おおおおお!」

救急隊員が足の指を押して状態を確認したが痛みが身体を支配した。

「ああああ!おおおおお!だいぶ、、、、だいぶ痛いです」

「親指?人差し指?」

「おおおおおおお!」

「痛いですか?」

「あ、、、はい、、、痛くて親指か人差し指か、、、分かりません」

「じゃあ、肋骨、、、脇、、、背筋を伸ばして座れますか?」

「、、、、はい、、、」

痛い身体をなんとか起き上がらせ足を伸ばして座り直した。

「じゃあ、ちょっと伸ばしますよ、、あ、洋服、洋服邪魔ですね、、脱がせて良いですか?」

「え?」

「道の真ん中なんですけど、、、まぁ、男だから、、、、脱がせますよ」

「、、、、あ、はい」

救急隊員が神楽本のシャツ脱がせ後ろから脇に手を伸ばして横腹を押した。

「どうですか?」

「あ、、はい、、痛いと言えば痛いです」

「、、、、うーん、、、ちょっと触りますよ」

横腹を数カ所触りチェックをしていた。その指は胸板まで続き神楽本の胸元まで届いた。

「あ、、あ、、、そこ、、、」

「どうですか?」

「あの、、、」

「え?」

「乳首に、、、」

「あ!、、、失礼しました。診断なので、、、」

「、、、、分かってます、、、」

「じゃあ、歩けますか?救急車まで。車の中でチェックしてから病院に」

痛い足を引きづりながら救急車に登った。ストレッチャーに腰掛けて胸を前に診断を待った。

「じゃあ、失礼します」

救急隊員は聴診器を胸に当て心拍数の確認と異音をチェックした。

「痛いところがあったら言ってください」

「あの、、、」

「ここ痛いですか?」

「あの、、、」

「はい?」

「聴診器が乳首に、、、」

「あ!、、、、失礼しました、心臓の音を聞かなければいけないので、、、」

「、、、、、分かってます、、」

その一部始終を伊東はスマホで撮っていたがニヤニヤしながら嬉しそうだ。

「ちょっと!貴方!」

救急隊員が気になって少し怒り気味に伊東に言った。

「あ、これ、ツイッターとかにはアップしないんで、、、かぐらっち、あ、、、そこの神楽本、、、、彼との約束で事故った時には撮っておこうって」

「、、、そうですか、、、まぁ、良いですけど、SNSにアップしたら法に触れる場合があるんでお願いしますよ!」

「はーい」

「ところで、神楽本さんのご家族への連絡や警察からの連絡をどなたか受けて頂けませんか?」

「あ、かっちゃんに、、、そこでムービー回してる彼に、、、伊東くんに、、、」

「ええええ、、、貴方?大丈夫?」

「大丈夫ですよ、電話だけでしょ」

「まぁ、そうですけど、、じゃ、念のためここに貴方の連絡先を、、、」

「はい!」

伊東は緊急連絡先のところに「伊東廉馬(いとうかどま)」と書いて電話番号も書いた。

「いつでも電話ください」

「いや、私が電話することはないです。警察から連絡があるかも知れないので」

救急隊員が書類を確認すると湯本に身体を向け聴診器に集中し直し救急隊員は内臓に緊急な異常の無いことを確認しながら神楽本に告げた。

「じゃあ、横になって、病院まで搬送します。貴方も、スマホで撮るのはここまで。病院に向かいます」

「あ、どこの病院?」

「それは、、、ここは山の中なので町まで出る間に連絡します」

「あ、はい、、、かぐらっち!」

伊東が神楽本に声をかけた。

「かぐらっち!病院決まったら教えて」

「、、、、うん。みんなにもごめんって言っておいて」

「OK!」

救急車のハッチバックが閉まりサイレンを鳴らしながら町まで向かった。

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シュールなコメディで贈るバイク乗りの物語。
ep2へ続く。