[ノベル]ライダーズオペレーション/ep4/保険をペロリ

=====ep4 / 保険をペロリ=====

家に帰ると鎖骨サポーターが1人では取れないことを思い出した。

「あ!、、、ああああ。。。。」

左手を背中に伸ばすと右肩が痛い。しかし昨日からシャワーも浴びていない。風呂に入らなければいけないと言う義務感が鎖骨サポーターを取りたいと思ってしまう。季節は寒さも感じるので1週間くらい風呂に入らなくてもなんとも無いが病院に行く前くらいはシャワーを浴びて行きたい。

「ああああ、、、これって、、、誰が作ったんだよ、、、親切じゃないよなぁぁ、、、」

背中を壁に押し付けてマジックテープがある場所を想像しながら壁の角に身体をねじる。

「俺は熊か、、、」

ビリっと言う小さな音がした。少しマジックテープに触れたと自分を言い聞かせた。

「よし!さすが俺!鎖骨サポーターごときが俺を拘束しようなんてのは、100万年でも早いわ!」

気分が盛り上がってきた。肩は痛いが盛り上がりが続くと痛みも少し和らいだ気がする。

「おし!あと、、、あと少し、、、」

鎖骨サポーターと格闘すること約10分。ようやく鎖骨サポーターが取れた。

「よっしゃー!、、、ってか、これ、付ける時も1人じゃ付けれない!どうすんだよー!、、、、、ま、シャワー浴びてから考えるか、、、、」

シャワーから出ると押し入れからバイクの留め具で使っていたクイックリリースを出して鎖骨サポーターを細工し出した。前でカチっと止めるようにした。

「おし!これで問題ない。初めからこうやって作れよ」

少し気持ちも落ち着いたのか時としてバイクのことを思い出した。

「あ!バイク!忘れてた、、、」

いつもバイクを修理してもらっているダンガンサイクルに電話した。電話に出たのはダンガンサイクル代表の藤秀島希だ。藤秀は神楽本より年上で不良の匂いをそのまま出している男だが性根は優しくてバイク屋としての腕も良い。

「おお!かぐらっち!どう?骨折だって?良いねー!」

「どうも、、、、」

「バイク、預かってるよ」

「すんません」

「どうする?自爆だろ?」

「ええ、、、来週肩の手術なんで、それが終わってから相談で良いですか?」

「良いよ良いよ、、、とりあえず掃除だけしとくよ」

「あざっす!」

電話を切ると笹吉の番号を押した。

「たきさん?うん、俺」

「大丈夫だった?」

「うん、、、来週手術」

「あ、やっぱ」

「なんかさ、みんなにも電話で謝りたいんだけど、俺が電話するとみんな気を使ってにさらに申し訳なくなるから、、」

「あ、OK、俺からラインしとくよ。かぐらっちもラインだけ入れておけば」

「そうする」

「まぁ、鎖骨なら2週間で動くようになるから復活ツーリングの予定回しておくよ」

「あ、サンキュー!行く行く!って、おい!、、、、、まだ痛いんよ、バイクに乗る自信ないわー」

そんな電話から数十分後に伊東の電話が鳴った。

「かぐらっち?生きてる?」

「生きてるよー」

「ああ、でもそれくらいで良かったよ。来週手術でしょ」

「うん。27日入院で29日退院、、、ってかさ、一昨日、みんなに心配かけちゃったかなぁぁ、、、と反省よ」

「全然!みんな大盛り上がりだったよ。死ななくて良かったって!手術、27かよ!24だったらメリークリスマスオペだったのに!そこの外し方が湯本っちぽくて好き!あああ、、、ナースとメリークリスマス出来ないじゃん!」

「しねーよ!」

「良い思い出って言うか盛り上がる年末ツーリングになって、、、まぁ、盛り上げてくれるよね」

「盛り上げ上手ですまぬ!」

「良いよ良いよ、生きてりゃOKよ」

「まぁ、今度ツーリングの時はあんまし無理しないで走るよ」

「あ、それ大事!」

「手術終わったら連絡する」

「OK!手術直後のグッタリした顔の写真も送って。ナースに撮ってもらって、、、、みんなに回して盛り上がるよ」

「そうしてくれると助かるよ」

「じゃあ、手術終わったら」

「うん」

仕事先にも電話して事情を話してキャンセルにしてもらった。せっかく50万円の仕事だったのに残念だ。ここから数ヶ月は無職となるだろうと自分の非力を痛感した。治療費は後々保険で賄えるだろうから心配はしていないがその手続きもタイムラグがあるので今日から節制だ。保険屋にも電話して確認しておこう。

「あ、神楽本と言います」

「えーっと、あ!はい!アイアイ保険カスタマーセンターの高坂です。神楽本様の担当なので直通になります」

「確認したい、、、と言うか、社交辞令でのお身体は大丈夫ですか、、、みたいな話は要らないんで、金の話だけをしたいんですけど」

「あ!はい、そう言ってもらえると話しやすいです」

「えーっと、通院は1日3000円最長90日、入院は1日最大5000円最長30日です。ただ通院は医師の診断書を見てから適切な通院期間かどうかを判断させていただきました。手術は1回に付き15万円、これは高額医療申請を役所でもらって頂いた上でのお支払いになります。ここまでがバイク保険です」

「はい」

「それと神楽本様はアイアイ保険の医療保険にも入っていますので、診断書ありきでのお話になりますが、鎖骨骨折と足の指の打撲と脱臼で予定金額ではありますが50万円前後のお支払いが見込まれます」

「はい、、、と言うことは、治療中は俺は一時支払いをすると?」

「えーっとですね、、、入院通院に関しては慈永体病院にこちらからお支払いすることも出来ますが、その場合、通院1日の金額がいくらでもあっても1日分と言うことになりますので、神楽本様に支払う通院1日3000円がそこで無くなります」

「支払いすることも出来ると言うのは?」

「はい、もし通院金額が2000円だとして神楽本様が立て替えた場合、領収書さえあれば無条件で3000円を支払うことが出来ます。なので1000円お得と言うことです。ただ、4500円だった場合、1500円の損失ですが、それをアイアイ保険から慈永体病院に支払う場合、1日分と言うことで神楽本様は支払いが0円となる仕組みです」

「ああああ、微妙ですねー」

「はい、、、、」

「どっちが得だと思いますか?」

「お得なのは、通院を長引かせて最長期間まで通院して90日目で27万円をこちらから直接神楽本様に支払って、その差額をペロリした方が、、、」

「ペロリですか?」

「はい、ペロリです。今は手術代金や通院費が高いですが術後すぐに数百円になると思うので結果的には、、、、」

「なるほど!じゃあ、それで!」

「分かりました。手術も入院も長引かせた方がお得なので、それも長引かせてペロリしてください」

「貴女、気持ち良いねー!」

「え?」

「いや、他にもペロリ出来る方法はありますか?」

「今この段階で言うのは間違いなのですが、手術後、おそらく来週の手術はボルトを入れますので、そのボルトの違和感で腕が上がらなければ後遺障害保険の申請が出来ます」

「と言うことは違和感が有れば良いんですね?」

「いえ、、、それは私の方からは、、、私どもは神楽本様の全快を応援するだけですから」

「応援してくれるなんて嬉しいです、、、で、腕をどうすれば良いんですか?」

「肩の場合は40度以下の稼働範囲で12から15等級にはなりますが約80万円の後遺障害が認められます」

「40度って狭いですね」

「はい。狭いですけど、違和感や痛みはご本人にしか分かりませんから」

「あ、そうですね」

「ひとまずは、手術が終わらないと話が進まないので、、、」

「あの、、、入院は2泊3日なんですけど、、、」

「えーっと、27日から入院、、、この際、正月まで入院したらどうですか?正月ですし、どうせやることないでしょ?」

「、、、、、まぁ、、、無いですけど、、、もー、貴女、気持ちいい!」

「入院は病院の規定や都合もあるので確認してみてください」

「はい、貴女、俺の担当?」

「はい」

「お名前、もう一度良いですか?」

「高坂美江と言います。タカサカヨシエ25歳です」

「ヨシエちゃんね、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

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シュールなコメディで贈るバイク乗りの物語。
ep5へ続く。

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