[ノベル]ライダーズオペレーション/ep6/オペと体力とチョメチョメ

=====ep6/オペと体力とチョメチョメ====


「神楽本さーん、オペの時間です」

村鈴とは違う少し年老いた声が聞こえた。

「オペの担当看護師の村町ヨリコです」

メガネをかけた少し小太りなおばちゃんタイプの看護師だ。容姿はともかくとして安心出来るお母ちゃんの雰囲気をぷんぷんさせていた。

「あの、、、」

「なんですか?」

「あの、、、俺は良いんですけど、、、」

手術着とでも言うのだろうか浴衣のようなものを着て待っていた神楽本が腕の裾をめくりあげ腕に入った刺青を見せた。

「あああああ、、、、、」

「あの、、、俺は良いんですけど、この格好で手術室に向かうと病院的に悪印象なのかなぁ、、、、とか思ったりして、、」

「それ、日本で刺したんですか?」

「はい、、、えーっと、この一個はニューヨークで、、、旅行に行った時に」

「へぇ、、、かっこいいじゃないですか!その旅行はいつ?その時に体調とか悪くなったりは?」

「20年くらい前で、、、良い旅行でした。でも両腕の刺青見せながら手術室に行くって言うのも、、、」

「ああ、、、!、、、そうですねー、、、分かりました!」

村町が席を外し数分後に車椅子を持ってきた。慣れっこと言えば聞こえは良いが病院で刺青を入れた場所や時期を聞くのは感染症や流行り病の場所と時期が重なっていないかを確かめるためだ。かっこいいから誉めたのでは無い。仕事の責務としての一端なのだ。

「これ、乗って。遠回りですけど、人目に付かずにオペ室に行きます。歩くと時間がかかるので、、、、一気に行きますよ!」

「あ、はい、、、」

その迫力ある言い方に少しビビりながら車椅子に乗った。

「行きますね」

「はい、お手柔らかに、、、」

言い終わる前に村町が車椅子を一気に押した。覚えてはいないがエレベーターに乗りどこかの階で降りて廊下の角を何回か曲がり一気に走り抜けオペ室に入った。

「あああああ、、、あの、、、けっこう、スリルが、、、」

「息が乱れてますけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫と言うかなんと言うか、、、良い速さだったので」

「またー、、、、R1より馬力はありませんよ、旧車のガンマくらいだったと思いますよ」

「あ、、、まぁ」

「良いコーナーワークだったでしょ、これ、ここ、このブレーキと足とでインをついたんですけど、今日はまあまあって速さでしたね」

「あ、そうですか、、、」

「じゃあ、麻酔科医にバトンタッチします、、、、なんか、耐久レースみたいで萌えるでしょ、、、」

「はぁ、、、はい、、、」

あの時の丸メガネの初老の麻酔科医が目の前に来た。

「ああ、神楽本さん、御気分は?」

「あ、はい、、、多少、スリルが、、、ドキドキしてます」

「、、、、ん?」

「いえ、、、よろしくお願いします」

横になり天井を見上げるとドラマに出てくるような手術室では無くどこかの居間のような天井をしていた。しかし壁にはそれらしい機械が並びドラマで見たこともあるスポットライトも横に控えていた。

「じゃあ、、、、」

麻酔科医がそう言うと麻酔マスクを神楽本にかけ、機械の調整をしている。

「じゃあ、行きますね、落ち着いて、呼吸を落ち着いて、、、」

「あ、、、はい、、、、zzzzzz、、、、、」

数秒も経たずに眠りに落ちた。心拍数を確認しすぐに手術が始まった。どれくらいの時間が経ったかは分からない。手術中の麻酔で夢を見ることはほとんど無い。それでも夢を見る場合ほとんど瀕死の状態の患者でその夢はほとんどお花畑を道標無しに進む夢なのだが眠った神楽本が見た夢は誰かに手招きされていた。

「こっち、、、こっち、、、」

「いや、今、手術で、、、」

「来ないのか?」

「行かないと言うか手術中だから、、、」

「なんだよ、、、、」

「は?」

「だから来いって!」

「あ?」

「だからかかって来いよ!」

「あああ?!」

「かかって来いよ!」

「なめんな!、、、、!」

目が覚め身体が起き上がりそいつをぶん殴ろうとした、、、、が、その瞬間、身体中に気絶しそうな激痛が走った。

「あた、、、痛!、、、、うが、、、ま、、、だだ、、、」

「抑えて!」

慌ただしく動く看護師たちを目の前で一瞬確認したが痛さでめまいが迫り気が遠くなりそのまま手術台に横倒れした。

「はい、神楽本さん、あと縫うだけですから」

「麻酔科医!麻酔!早く!早く!」

優しい声と慌ただしい声がうっすら入り混じる中、麻酔科医が麻酔の量を多く噴出させ一瞬で神楽本は深い眠りに着いた。

「、、、、zzzzz、、、、」

1時間くらい経ったのだろうか神楽本は喉の痛みと肩の痛みをなんとなく感じながら目を覚ました。

「ん、、、んんん、、、あああ、、、まあ、、、は、、、痛、、いたい、、、」

声にならない声でまぶたを頑張って開いた。

「、、、、、はぁ、、、はぁ、、、」

腕が動かないので麻酔マスクを顔をずらしながら外した。上手く外れず目の前に麻酔マスクが上がった。なんともわずらわしい。

「ん、、、んだよ、、、、はぁ、、、はぁ、、、」

何とか身体をよじり顔から麻酔マスク外せたのに何分かかったのだろうか。意識が朦朧(もうろう)としている神楽本は本能でしか動けない。しかしその動きも鈍い。何とかナースコールに手を伸ばしボタンを押した。少し経った時の村鈴が来た。

「神楽本さーん、起きましたか?」

「ばい、、、い、、、」

はい!と返事をしたいが声が出ない。村鈴の前でカッコ付けたいがカッコ付けることも出来ない。さっき身体をよじったお陰で手術着もはだけ簡易オムツが丸出しになり上半身も露わになってしまった。ちょうど浴衣の帯だけ残ったようなみっともない姿だ。

「ああ、もう、、、はだけて、、」

「あ、ごべん、、だ、ざい、、、」

「喋らなくて良いですよ、起きたまま、あと30分くらい辛抱してください。麻酔はちゃんと抜けますから、、、、」

「あい、、、」

言われるがままに我慢しながら時間を待った。横で血圧を測ったりはだけた手術着を直してくれる村鈴が愛おしく感じた。ありがとうと声を出したいが上手く声が出ないのがわずらわしい。

「どうですか?私が分かりますか?ここがどこか分かりますか?今日は何曜日ですか?、、、お名前、あなたのお名前は?誕生日と血液型を言えますか?」

「あ、むら、、、す、、びょう、、、ん、、、げ、、、にち、よう、、、げつ、、、ゆ、、、も、、しょうわ、、、ああああ、、、」

麻酔のせいなのか質問が多すぎて答えが追いつかない。

「んん、、、まだ麻酔が残って、、、、、、まだ無理ですねー、、、」

そこに小田らしき医者が看護師を3人くらい連れて来た。目の前がぼやける神楽本の正確な状況の判断は難しかった。

「神楽本さーん、、、手術は成功でしたよ、ちょっと傷口、見せてくださいね」

「ああ、、、ああ、、」

肩の裾を捲り傷跡を見ると小田らしき医者は満足そうな言葉を告げた。

「ああ!きれいですね。良い傷跡だ。キレイな手術で良かった」

「ああ、、、はぁ、、、ああ」

「神楽本さーん、そろそろ目を覚ましてください、、、神楽本さーん、、、神楽本さーん、、」

「ああ、、うう、、、はぁ、、」

何かの手招きなのか指示なのか数人いるナースが神楽本の身体を揺さぶり始めた。

「神楽本さーん!」

「カグラモトさーん!」

「神楽本さん、目を覚まして!」

身体全体がブラブラと揺らされる神楽本だが誰かが何かを話しかけていることくらいしか分からなかった。

「あ、、、ああ、、、はぁ、、、」

「神楽本さーん!

「神楽本さん!目を覚まして!」

「神楽本さん!もう起きて!」

その揺さぶりと声がどんどん大きくなって行く。神楽本の身体がグラグラと大きく揺れ軸のない人形のように大きく首が回って行く。

「ぁぁ、、、、ハァァ、、、、」

「神楽本さーん!早く!麻酔に負けないで、起きてくださーい!」

「神楽本さん!もう起きて!早く!」

「神楽本さん!」

「、、、、、、、、、、、うるさい!」

神楽本が精一杯声を荒げた。しかし、荒げた声と身体の揺れがしんどくて一瞬で疲れ果てベットに堕ちた。

「、、、、、zzzzzzz、、、、」

小田が看護師に毛布をかけるように指示をし村鈴が枕を直して神楽本の首を真っ直ぐにした。

「、、、、、、、起きたら教えて」

「はい」

小田はその言葉を残して病室を出た。麻酔のせいではなく疲れから眠りに入ったまま数時間が経ち目が覚めると身体がだいぶダルい。目が覚めた時は日が暮れかけていた。

「あああ、、、だる、、、ああ、、身体、、、うううう、、」

身体を起き上がらせようとすると肩が痛い。その痛みに比例するかのように身体全体も痛い。身体をどっちむきにしても痛みが全身を襲う。

「ああ、、、、、、ふぅっー、、、、いた、、、うううぅぅ、、」

どれくらいの時間、痛さと付き合ったか分からないがしばらくして村鈴が来た。

「神楽本さーん、、、失礼しますよー」

「、、、、、、」

「あ、起きてらしたんですね、どうですか、具合は?」

「、、、、、痛い、、痛いで、、、す、、肩、、、、」

目の前の女性が誰だか分からなかったのは麻酔の残りと痛みのせいかも知れない。女性の胸元をイヤラシイ気持ちで見たわけではないが本能が目のやり場を胸元に向かわせた。そこには「村鈴」と名札があり、その名前を見てようやく頭が働きだした。

「あ、、、村、、むらすずさん、、どうも、、、」

「はい、村鈴です。神楽本さんの担当です。肩は痛みますか?」

「はい、、、痛いです」

「我慢出来ますか?」

「いや、、、、だいぶ痛いです」

「我慢出来ませんか?」

「はい、、、結構な痛さで、、、、」

「じゃあ、今、痛み止めの坐薬持って来るんで、少し我慢してくださいね」

「、、、、、、、」

村鈴は体温と血圧を測り出した。

「体温、少し高いですけど大丈夫でしょう、、、血圧は正常ですね、、、」

「、、、はい、、、」

「痛いがあるみたいなので横に、横になってましょうね」

身体を横に寝かせようとしたとき、癖で右腕で身体を支えてしまい一気に激痛が身体を支配した。

「あた、、、、痛!、、、うが、、、ああああ」

痛みが身体中に走り崩れ落ちるようにベットに転がった。倒れ込んだ右肩がさらに激痛を走らせた。

「あが!、、、、、あ、あ、あ、、、、ほー、、、あ、、が、、が、、、あああ」

「大丈夫ですか!神楽本さん!」

「あああああ、、、は、、、、、、まぁ、、」

「今、痛み止め持って来ますから」

なんとか身体を真っ直ぐに仰向けになり深呼吸して気持ちを落ち着かせた。ジンジンと痛みが続く。顔も少し熱い気もする。そう言えば村鈴が美人ナースだったのをようやく思い出した。思い出すと少し痛みが和らいだ気もする。

「あ、さっきの村鈴さん、、、、だったか、、担当が美人で、、、、なんか、、、お得、、、、、、」

落ち着いた気持ちも束の間、村鈴がやって来て看護師としての術後管理を全うするのだ。

「入りますよー、神楽本さん」

「村、、、鈴さん、、、、、」

「痛み、痛みは?」

「はい、まだ、、、、だいぶ痛いです、、、肩、、、身体全部が、、、、」

「じゃ、、、横に」

そう言うと村鈴は神楽本の身体を横にして入院着をめくり上げ簡易オムツを下ろした。

「お尻、少し上げて、、私の方に突き出して、、、、」

「え?は?、、、え?」

言われるがままにお尻を突き出した。

「はい、、、、」

尻の穴を広げられ坐薬が挿入された。

「あ!はぁ、、、、ぁぁ、、うううう、、、はぁ、、、ぁぁ、、、あ、、」

「しばらくしたら効き出すので、、、」

「、、、、、、はい」

横になったまま村鈴に尻の穴を広げられた恥ずかしさが込み上げた。恋人でも無い女性に尻を責められてしまった。

「まだ、手も握ってないのに、、、尻の、、、尻の穴からなんて、、、、」

涙こそこぼれ落ちなかったが気持ちが一気に黄昏ていった。おそらく坐薬が無くても村鈴と恋仲になる可能性は低いが坐薬挿入でその可能性は確実なゼロになったことを確信した。

辱めを受けたわけではないが身体を横向きに尻を突き出したままで動けなかった。しかしその恥ずかしさとは裏腹に坐薬が効いてきて痛みが和らいでいく。そのおかげで疲れが一気に和らぎ眠りに入った。

目を覚ますとそこに小田がいた。

「ああ、神楽本さん、お加減どうですか?」

坐薬が効いているようで痛みは無い。

「はぁ、、、今は痛くないです」

「でしょう、、、僕の手術は完璧だったので、、、うん、傷口もきれいだ!まぁ、ここまで上手く行くと痛みはほとんどありませんからご安心を」

「あ、いや、今、、、坐薬、、、坐薬が、、、」

小田が腕時計を見て看護師たちに指示を出している。

「痛みは無いから、退院の手続きと、、、、あと、夕食は少し遅れて出して、、、」

「あの、、痛みが無いのは坐薬、、、」

「じゃあ、、、神楽本さん、僕は6時で上がるんで、あとは村鈴くんに任せておきますので、指示に従ってください。今日の夕食は、、、7時くらい、魚だそうですよ、、」

「、、、いや、、、、痛みは、、、座薬で、、、、、ぁぁ、、、あ、はい」

言いたいことだけ言い残し小田は病室を出て行った。

「、、、、、、、」

神楽本は小田医師へ少々あきらめがちな気分になった。今後痛みが出る可能性が少し怖かったがそれよりも今自分の欲求を布団を直している村鈴に告げた。

「あの、、、コーヒー、飲みたいんですけど、良いですか?」

「あ、えーっと、、、」

時計を見ると村鈴が小さな声で答えた。

「あと30分くらい我慢してほしいんですけど、、、、私、買って来ますよ。缶コーヒーで良いですか?」

「あ、ありがとうございます。そこに財布が、、、」

財布を手渡すとそのまま村鈴が売店に向かった。後ろ姿も美人な村鈴だった。しかし、ハッ!と気がついた。財布にはゴムが入っている。大人の嗜(たしな)みだと思ってくれるはずが無い!やばい!マズイ!間違いなく変態扱いされる!そんな恐怖が神楽本によぎった。坐薬を挿入され財布の中にゴムを入れてる男、短い時間とは言えこれからの入院生活に対し村鈴が優しくしてくれるはずもない。一気に喉が乾いた。

「、、、、、、あああああ、、しまったー、、、、寝たふり、、、寝たふりしよう、、、そうだ、それしか無い、、、、寝たふり」

村鈴が病室に缶コーヒーを持ってきたが神楽本は眠っているようだ。小さな声で村鈴が財布を置いた。

「神楽本さん、、、ここに置いておきますね、、、」

寝たふりだったがしばらく横になっていると本当にそのまま眠りに落ちた。

「神楽本さーん、、、開けますよ」

「う、、、んん、、、」

目を覚ますと村鈴が夕食を持ってきていた。

「ご飯です。今日は魚です、、、食欲は大丈夫ですか?」

「あ、、、はい、、、」

「もー、神楽本さん、あんなの、、、、あれって、、、、、、、意地悪!」

「え?」

「だって、ああ言うの見ると、やっぱり、そうなのかなぁぁ、、、、って、私も慌てて買いに行ったからどうしようもなくて、、、」

「いや、あれは、その、、、偶然入っていたと言うか忘れてたと言うか、、、、冗談で笑わせようかなぁぁ、、、と、思って」

「もー、私も仕事中なんで、そう言うパターンは困る時もあるって言うか、、、」

「あ、村鈴さん、キレイだし、その、、、やり手のお姉さんって感じと言うか、、、」

「私、そんなんじゃないですよ、、、」

これはもしかしたら村鈴が遠回しに告白を促しているのかも知れない。しかしここは病院で患者とナースの関係で好き嫌いの話をして良いのか、女性の方から気持ちを言わすわけにもいかない。財布にゴムを入れっぱなしにしていたのは不幸中の幸いだったのか。話が早いと言うのは間違いないのか。なんと言えばスマートなのか。頭の中で今この場に相応しいロマンチックな言葉を探している。目指すは男の夢、入院中にナースとチョメチョメ。

「、、、、、、あの、鈴村さん、退院したらどこかで食事でも、、、、」

「、、、、え?、、、でも」

ロマンチックではあるがありきたり過ぎた。このままでは変態扱いされるかも知れない恐怖とこの千載一遇のワンチャンスをものにしたい気持ちが慌ただしく乱れる。もう後には引けない。

「いや、お礼も込めて食事をプレゼントしたいんですけど、、、」

「お礼なんて、、、、仕事ですから」

「その、、、、ぜひ、、、、」

「でも、お金、、、、」

「お金なんて気にしなくて良いですよ、おごりたいんです」

「いや、でも、、、、」

「何か、、、?」

「お財布にお金、、、小銭しか入っていなくて、、、、缶コーヒー買いに行ったら98円しか入っていなかったんで、、、お札もな入ってなかったし、、、、とりあえず立て替えたんですけど、、、、なんか、、、、その事故で、、入院とか保険で、、そう言う準備って忘れたのかなぁ、、、、っと、、、」

「え?」

「ですから、お財布に、、、」

「あれ?え?、、、お金無かった、、、?」

「はい」

「あれ?、、、、そー?、、、えーっと、、、、えーっと、、、」

神楽本は財布を開けてお金を確認した。確かに小銭が98円ほど入っていた。札を入れた覚えがあったがそれは勘違いだった。カードで支払う癖があったせいか小銭が財布に入っていれば何かと安心と思ったのかも知れない。そう言えば自分でカップうどんを買った記憶もある。思い出したがその時にも小銭で支払った。

「あ!、、、、」

カップうどん165円と108円のコーヒー、財布に98円と言うことは371円を持っての入院になっていた。

「あ、、、、そう言えば銀行に一度も行ってない、、、、」

事故をしたツーリングの時に2万円くらい財布に入ってた記憶があったが事故日からの交通費やら食費やらなんやらで残金が小銭しか無くなっていたようだ。

「いや、、、、その、、、、え?財布の中、、、見て?」

「見ました。小銭しかないんで、どうしようかと、、、」

「あ、、、ゴム、、、は?」

「ご?ごむ?、、、、なんですか?」

「あ!いや、、、良いです、、、」

「お金入れてないから、ドッキリか何かで私を困らせようとして!、、、、、私も仕事中なんでお財布持ってないんですよ、、、でも缶コーヒーも買わなきゃいけないし、、、もー、困りましたよ」

「あ、、、、、あ、ですよねー!」

「それより、食欲はありますか?」

「あ、はい、、、」

「肩は痛みますか?」

「あ、はい、、、」

「後でお薬持ってきますね」

「あ、はい、、、」

「あの、、、、退院した後でも良いんで、、、コーヒー代108円、、、頂いても良いですか?

「あ!もちろん!、、、明日コンビニで下ろしてきます」

「他に何か、、、、、ありますか?」

「いえ、、、、、、、お世話になりました」

雰囲気が悪くなった訳では無いが勝手に色っぽくなっていたのは神楽本1人だけだった。

「あ!、、、退院って延長出来ますか?」

ようやく我に返った神楽本は手術後の小田の診断が不安で仕方がなかった。出来ればもう1日入院して様子を見たかった。あの痛みが自宅で起こったら自分では対処出来ないと感じていた。

「入院、1日、、、2日でも良いんですけど、延長を、、、」

「あ、ベットの空き見て来ますね。何日までの希望を出しますか?」

「、、、、うーん、、、、、、何日?」

「希望なので、ベットの予約や埋まり具合でお応えできない時もあるんですけど、、、」

「ああああ、、、どうせ、正月はやる事ないし、、、元旦まで居ようかな、、、」

「あ、それ良いかも。ここ病院ですけど、年末年始はロビーのテレビで紅白とか見たり、1階のエントランスでもガキ使とか、流して正月気分上げているんですよ」

「あ、、、そうなんですか」

「そうですよ!どうせやる事ないならお正月をここで迎えましょうよ」

「あああ、、、ああ、、はぁ、、まぁ、、、やること無いんですけど、、、」

「でしょー!じゃあ!」

ベットの空き状況を確認しに戻った村鈴を待ちながら夕食を食べた。

「うん、、、ここの病院、なかなか美味いな、、、」

食事を食べる時も右腕を大袈裟に動かすと肩が猛烈に痛む。少しほぐす意味で肩を回したいのだが肩を回そうと前に後ろに動かそうとすると一気に疲れる。

「神楽本さーん!元旦までOKでした!」

「あ、そうですか、、ありがとうございます」

「あの、お金の方、大丈夫ですか?」

「あ、えーっと、、、、、」

指を折って日数を数えた。

「あ、えーっと、、、27、28、29、30、31、、、、5泊なんで大丈夫だと思います。明日、保険に電話して確認してみます」

「あ、保険でしたね、、、、」

残金98円の男が保険を使うと村鈴のような切ない顔になるのかも知れない。

「保険でしたね、、、入院伸ばしてなんとかしましょうね、応援します」

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シュールなコメディで贈るバイク乗りの物語。
ep7へ続く。

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