[ノベル]ライダーズオペレーション /ep8/大晦日まで
=====ep9 / 大晦日まで======
入院延長をした。
ベットに横になると肩の痛みも和らぎ少し落ち着いている。入院延長と言っても年末年始にやることもなく保険金を多めにもらうためとは言え何とも世知辛い気分だ。
「あああ、、、とは言え、病院でやることもないし、、、、何すっかなぁぁ、、、、」
家にいても特別やることもないが病院にいてもやることもない。病院の日中の出入りは自由だがどこかへ行くにも気が引ける。そんなことを思っていると道坂がベットにやって来た。
「神楽本さん、失礼しますよー」
「あ!えーっと道坂さん、、?」
「今日から大晦日まで私が担当です。大晦日の通しなので一緒に新年を迎えられますね」
「あ、ありがとうございます」
「入院延長したんですって?手術跡、痛みますか?」
「あ、いえ、今は大丈夫です」
保険金アップのことを言うべきかどうか悩んだが痛みがたまにあるのは事実だしその恐怖も事実だ。しかし回復することは分かっているので結局は保険金アップのためになる。これを目の前の可愛らしい看護師と共有出来るのかどうか微妙なところだ。村鈴の言った臨時ボーナスの話もあったが道坂のこの可愛らしい顔の裏にあんなにドライな表情があるとしたらそれもまた恐怖だ。病院とは恐ろしい場所だ。
「あの、、、、」
「え?」
「映画とかドラマでよくある先生とナースの不倫とかあるの?」
「ああああ、あれは映画だけのお話で、そんなの無いですよ。不倫、、、もしかしたら私が知らないだけかも知れませんけど」
「別れる別れないで、手切金とかあったら怖いねー」
「、、、、言っても職場恋愛、、、職場不倫だったら、、、私たちが辞めさせられて終わりでしょうね」
「あとさ、、医療ミスとかナースのせいにする医者とか、、」
「ああああ、、、あれは完全にドラマとか映画だけのお話ですね」
「そっかー、、、そう言うのあったら面白そうで入院ライフを延長したいけどねー」
「え?」
「いや、、、元旦の後も延長、、、」
「、、、、、、、」
「嘘嘘、、、、」
「もー、、、退院してくらないと私たちの仕事の意義と言うか、、、でも、、、もう少し居てくれると嬉しいかも、、」
「え?」
道坂の顔が少し赤らみながら目がうっとりしている。まさか!とは思うがこの感じはなんだろうか。
「あの、、、、」
「あ!嫌だ、、、、あれです、、、バリ伝、、、続き読みたいし、、、1巻も返してないし、、、」
「あ!、、、、ですよねー、、、でも道坂さん、バイクなんて、、、」
「私、一度も乗ったことないんで、、、機会があったら乗ってみたいなー、、、と。バリ伝、面白かったし、、、なんか青春の匂いって言うか」
「バイク、最高だよ!今度後ろ乗せるから走りに行こうよ!」
「はい!ぜひ!」
道坂の可愛らしい笑顔から「入院延長臨時ボーナスペロリ」なんて言う言葉が出なくて安心はしたが、何処まで本気で何処まで冗談なのかも分からなかった。どちらにしろバリ伝の1巻を返してくれるのは年始になりそうだ。
道坂と何げない会話をしているとLINEに笹吉から連絡が入った。
ーーー大晦日ラン!夜10時集合。横浜桟橋で日の出見て解散ーーー
「って、おい!俺、病人だって!」
「え?、、バイク乗れるんですか?」
「まぁ、、、右肩が痛いくらいなら乗れるけど、、、」
「でも大晦日は入院、、、」
「行かないですよ。行くわけないでしょー。だって道坂さんと新年迎えたいから」
「え?」
「いや、、、その、、、、」
「あ!そう言えばバイクって、、、、あれ、何でしたっけ?」
「え?」
「あの、、、、結婚式場から花嫁を連れ去って、、、それで空港?、、空港を2人乗りで走る、、、、確かトムクルーズ、、、、」
「それ、映画卒業とトップガンが混ざってるね」
「え?金髪の外人を連れ去ってバイクに乗せて、、、」
「まぁ、、金髪だけど、、、」
「あ!やっぱり、バイク乗ってる人は彼女さんを浜辺で一瞬マジに抱きしめるんですか?」
「それ、ハイティーンブギ、マッチの歌」
「あ、、、、」
「道坂さん、いくつなの?」
「私、25です」
「25でハイティーンブギ知ってるのはなかなか、、、、」
「私なんて神楽本さんからしたら娘みたいな感じですよね」
「、、、、、いや、、、、、それは、、、逆に!逆に、道坂さんからしたら俺なんておじさん扱いでしょ、彼氏とか彼氏候補とかには見えないでしょ?」
「え、、、、そんな、、、、素敵です」
「え?」
「もー、やめてください。でもバイクでさらわれたら、、、、一瞬まじで抱きしめてほしいです」
「えええええ、、、、えーっと、、、、、」
「だめですか、、、、」
「、、、、あ、その、、、、そう言う場面があればぜひ拐います」
「、、、、、、よろしくお願いします」
「、、、、、、」
時計を見て道坂は部屋を出ていった。残された神楽本は照れくさい雰囲気を1人でモジモジと味わっていた。
「いや、待て、、、、これは揶揄(からか)われている、、、、そうだ、揶揄われているだけだ、あんな可愛い女の子が49のおっさんに、、、無いな、無い、、、、それは無い」
自分で自分を説得しこの色っぽい空気を夢だと言い聞かせ病室を出て病院の外まで来て笹吉に電話した。
「あ、たきさん、、、」
「おお!かぐらっち!LINE見た?」
「見たよ、、、俺、骨折れてるんだけど、、、」
「大丈夫、大丈夫、、、まだ2日あるから治るって」
「治んねーよ!半年くらいかかるって」
「あ、そうなの?鎖骨でしょ?」
「鎖骨だけど、そうなんだって」
「あ、、、じゃあ、来ないの?」
「んんん、、、行きたいけど、、、無理だよ」
「ああ!本当は行きたいくせに!」
「そりゃ、、、そうだけど、、」
「退院は?」
「元旦」
「そうかぁー、、、」
「みんなには悪いけど、今回はパスだわ。元旦まで大人しくしてる」
「分かったよ、、、残念だけど、、、あ、元旦に迎えに行ってやろうか?」
「え?家近いから大丈夫だけど、迎えに来てくれるなら、嬉しいなぁぁ、、、」
「OK!迎えに行くから」
「ありがとう」
友とは有難い存在だ。無茶も言うが誘ってくれる友人と言うのは人生の宝と言える。今年は残念ながら初日の出は見に行けないが病院のテレビでみんなと同じ初日の出を見よう。出来たら隣に道坂がいてくれることを想像しながら病室へ戻った。
自分に自分で言い聞かすことが出来ないのが男と言うものだ。男は淡い夢をいつでも持っている少年なのだ。
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